福岡歯科大学

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学部・大学院

森田 浩光 教授 インタビュー

「食べる」を支える歯科医療~その使命を次世代へ繋ぐ~
2026.08.03
成長発達歯学講座 障害者歯科学分野
森田 浩光 教授

――先生のご出身についてお聞かせください。

森田: 宮城県仙台市の出身です。気候的に冬は寒さが厳しいですが、心は温かな人が多い土地柄です。

――幼少期・学生時代はどのようなお子さんでしたか。 

森田: とにかくやんちゃで落ち着きのない子でした(笑)。中学の頃にポール・ニューマン主演の「スラップショット」という映画に憧れて、アイスホッケーを始めました。アイスホッケーにはすっかりハマってしまい、本学に赴任する前まで約30年間プレーしていました。
そのほかにも、幼少期から様々なチームスポーツを経験してきたので、チームの中で役割を果たしながら全員で一つの目標を達成する面白さや、チームプレーの大切さを学びました。この感覚が、今のチーム医療への思いにつながっていると感じます。多職種の方たちと協働する仕事は多くの学びを得られる機会でもあるので、今でも本当に楽しいですね。

――現在の趣味や続けていることはありますか。

森田: 以前は苦手でしたが、読書をするようになりました。最近になって面白さに気づき、専門外の分野の書物にも積極的に手を広げています。映画鑑賞は学生時代からの趣味で、今も時々暇を見つけて観ています。

――今の道に進まれたきっかけは何でしょうか。

森田: 中学生の頃に祖母をがんで亡くし、大好きだった従兄弟も31歳という若さで脳腫瘍が原因で亡くなりました。この経験が、「人の命を支えられる仕事に就きたい」という原点になっています。 最初は医師を志していたのですが、浪人中に運命的な出会いがありました。当時、東京医科歯科大学(現・東京科学大学)歯科麻酔科で障害者歯科にも携わっておられた歯科医師の中村全宏先生と、個人的にお話しする機会がありました。その際に「歯科でも全身を診る」「全身管理は歯科治療において非常に重要だ」という言葉に衝撃を受け、障害者や全身疾患を有する方(いわゆる有病者)の歯科医療の際には特に全身管理が重要であり、医科の方々とともにチームとして患者さんの医療に携わることができると知り、歯学部を目指すことを決めました。 30数年ぶりに中村先生と再会した際、「同じ世界に入ってくれたんだ」と喜んでいただけたことは、忘れられない思い出です。私自身も教育者として、できれば学生の人生に影響を与えられるような出会いを提供したいと考えています。

30年ぶりの再開.jpg

中村全宏先生との30数年ぶりの再会

 

――被災地での医療支援活動に複数回参加されたと伺いましたが。

森田: 東日本大震災、熊本地震(※)、九州北部豪雨、能登半島地震と、4度にわたり医療支援に参加させていただく機会を得ました。東日本大震災では発災から4か月後となる災害慢性期に歯科単独で避難所や介護施設に入居している比較的健康な高齢者に対する口腔ケアや義歯調整での支援を行いました。一方で、熊本地震(※)では発災から約2週間後の亜急性期に、医師・看護師・薬剤師・言語聴覚士などで構成された多職種の災害時医療支援チームの一員として参加し、全身疾患を抱え寝たきりの高齢者や摂食嚥下障害のある方を対象に、誤嚥性肺炎予防のための口腔ケアや応急処置が必要な歯科疾患への対応などを行いました。口の中の清掃状態や飲み込みが悪く肺炎のリスクが高い状況だった方が、我々の介入により災害関連死の原因として一番多い誤嚥性肺炎の発症を抑えることができ、全身状態が少しでも回復されたことに喜びを感じました。災害時でのチーム医療の重要性を深く実感させられる出来事でした。
また、能登半島地震まで4度の災害時歯科医療支援を経験し、現場でしか得られない経験や知識を次の世代に伝えていくことも、自分の大切な役割だと感じました。

※平成28年(2016年) 熊本地震

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熊本地震の被災地で、口腔ケアにあたる

 

――障害者歯科学とはどのような学問でしょうか。

森田: 学生からよく「障害者歯科・高齢者歯科・有病者歯科の違いは何ですか」と聞かれますが、実は明確な線引きはありません。それらは教育上の都合で分類されてきた経緯があり、現在は全てを包含して「スペシャルニーズ歯科」と呼ぶことが多くなりました。教科書をはじめ当科の診療科名にも障害者歯科に併せてスペシャルニーズ歯科を掲げています。一言で言えば、「特別な支援が必要な方に安全な歯科医療を提供する学問」と理解していただけるとわかりやすいと思います。
臨床現場においては、分類にこだわるより、「この患者さんにどんな歯科医療支援が必要か」を個別に考えることが最も大切だと思っています。

――現在の研究内容について教えてください。

森田: 「全身疾患と歯科治療の関係性」をテーマに研究しています。九州大学大学院医学研究院や米国バーモント大学医学部で循環器薬理の研究指導を受けていたこともあり、循環器疾患に関連する基礎研究のテーマが多いですが、がんの基礎研究や心疾患やがん患者の口腔管理の研究など幅広く研究をしています。
もともと大学院では薬理学を専門としていたので、将来的には創薬につながる研究にも挑戦し、できれば新たな薬を世に届けて医療に貢献したいという思いも強く持っています。

――研究で困難に直面した際はどのようにしていますか。

森田: 無理にその場で解決しようとせず、いったん別のテーマに取り組むようにしています。大学院時代に、行き詰まった問題が、他の研究を進める中で自然と解消された経験があったからです。
この経験から、大学院生の指導では基本的に二つの研究テーマを持たせています。一方が行き詰まっても、もう一方を進めることで研究の流れを止めずに済みます。時間をおいて見直すことで新しい視点が生まれたり、他者の成果が突破口になったりすることも多いです。研究は、一朝一夕で成果が出るものではなく、時間をかけて積み重ねるものだと考えています。

指導学生と.jpeg

指導する大学院生と、学会でのポスター発表会場にて

 

――診療で心がけていることはありますか。

森田: 診療で最も大切にしていることは、患者さんと対等な目線で向き合うことです。医療現場では医療者が上の立場になりがちですが、提供する側と受ける側は本来対等であるべきです。障害のある方であっても、その方が何を感じ、何を考えているかを想像しながら、一人の人間として真摯に向き合うことを基本姿勢としています。

――特に印象に残っている患者さんはいますか。

森田: 研修医の頃に担当した末期の悪性リンパ腫の患者さんのことは、今でも忘れられません。病気の進行で腫瘍が上あごの半分におよび、総義歯が使えない状態になっていました。入院中に「死ぬ前にもう一度口からご飯が食べたい」と相談されました。正直、私は「難しいのではないか」と思いましたが、当時の師匠に相談すると、「無理でも患者さんのために何ができるかを考えるんだよ」と言われました。その言葉に背中を押され、補綴科(入れ歯科)の先生にもご協力いただき、噛み合わせや義歯接着剤などを工夫してなんとか義歯を使えるようにしたところ、患者さんは念願であった口から食事を摂ることができました。その後に主治医から患者さんは亡くなったとお聞きしましたが、最期に口から食事ができて「とてもおいしかった」と言ってくれたとのことでした。歯科医師になって初めて患者さんの役に立てたと感じた瞬間でした。
「人生最後に何を食べたいか」と問われることがあります。しかし私がその患者さんから学んだのは、「何を食べるか」以上に、「最期まで自分の口で食べられること」が人間としてとても嬉しいことなのだということでした。これからも患者さんを支える歯科医師であり続けられるよう、心を砕いていきたいと思っています。

――授業や実習で意識していることはありますか。

森田: 講義では各単元での重要ポイントを明確にし、国家試験頻出の内容に重点を置いてメリハリをつけています。私の担当科目の学生成績が全国平均を上回ることが多いのは、共に指導に携わってくれている障害者歯科学分野の先生方のおかげです。
実習や演習では、技術・知識の習得に加え、「なぜ歯科医療を行うのか」という問いを軸に、スペシャルニーズを要する患者さんとの向き合い方や医療倫理も伝えています。確かな知識と技術を持ちながら、患者さんから信頼される人間性を備えた歯科医師を育てることが、本学での教育における最大の目標です。

――学生へのアドバイスはありますか。

森田: まず、得意分野を伸ばしてほしいと思います。苦手なことばかり気にする学生が多いですが、「これが得意だ」と胸を張れるものが一つあれば、その自信が他の学びにも広がっていきます。
また、1年生の頃から「互いに教え合いなさい」と伝えています。人に教えることは深い理解と復習になるからです。以前、物理が苦手だった文系出身の学生が友人に教わりながら80点を取れるようになったと報告しに来てくれた時は、本当に嬉しかったです。
大学での学習は競い合うものではありません。国家試験という資格試験に皆で助け合いながら努力した経験は、将来のチーム医療でも必ず役立ちます。自分に自信を持ちながら、分からないことは素直に聞き、互いに支え合って成長してほしいと願っています。

――今後の目標をお聞かせください。

森田: 研究面では引き続き創薬への挑戦を続けていきたいと考えていますが、臨床・社会的な面で特に力を入れたいのが「障害のある方を支える地域歯科医療の環境づくり」です。2008年に高齢者支援を目的として整備が始まった地域包括ケアシステムは、現在、高齢者だけでなく障害のある方や生活が困難な状況にある方など、いわゆる社会的弱者を地域全体で支える地域共生社会の実現へと方向性を広げました。
障害者・高齢者・有病者などスペシャルニーズを要する方々が、どこに住んでいても安心して必要な歯科医療を受けながら暮らせる社会をつくること——それが私の目標です。

――本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

 

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