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学部・大学院

吉永 泰周 准教授 インタビュー

「沈黙の病気・歯周病と戦う」
2017.05.01
口腔治療学講座 歯周病学分野
吉永 泰周 准教授

――本日はよろしくお願いします。まずは歯科医師を目指したきっかけを教えてください。

吉永:今は見た目がこんなにガッチリしていますが(笑)、幼い頃は大きな病気で数回の入院を経験しています。だから子どもの頃から漠然と医療に携わる仕事がしたいという思っていたのですが、高校生の頃から具体的に歯科医師を目指すようになりました。

――地元の岡山から長崎大学歯学部へ進学されましたが、大学生活の思い出はいかがでしょうか。

吉永:大学生時代に部活はしていなかったのですが、サッカー部所属の友人が多かったこともあり、かなりのサッカー好きでした。ちょうど6年生の臨床実習の真っ最中に、2002年の日韓ワールドカップが開催されて、「どうしても見たい!」ということで友人と週末に弾丸ツアーで韓国まで見に行きました。当時ベスト4入りした韓国戦を観戦したかったのですが、なかなかチケットがとれず「デンマークvsウルグアイ」でした(笑)。それでも、ワールドカップで生の試合を観戦できたことは、とても良い思い出になってます。

――歯周病学をご専門に選ばれた理由を教えてください。

吉永:臨床実習のときに歯周病の患者さんを担当したのですが、治療後の検査で歯周ポケットが改善することを経験して、「歯石を取るとなぜ歯周ポケットが浅くなるのか?」と疑問に思ったのがきっかけです。また指導教員から「歯周病を専門にすれば、歯周外科、抜歯、むし歯の治療、補綴(ほてつ)など何でも出来るぞ!」と言われたのも理由の一つです。当時は歯科医師臨床研修制度が導入される前でしたので、大学卒業後は、そのまま大学院へ進学して専門的な研究をやりました。


歯周外科治療での吉永先生

――先生が取り組まれた研究成果についてお話いただけますか。

吉永:歯周ポケット形成を伴う歯周炎の動物モデルの作製法を、ラットを用いて確立しました。細菌が歯と歯ぐきの隙間に入り込むと、細菌への防御反応として免疫系が働き炎症反応がおこるのですが、その反応が過剰になり歯周ポケットが形成されたり、歯槽骨がとけたりする病気が歯周炎です。当時、このような細菌に対する免疫反応のみで歯周ポケット形成が起こることを再現した動物実験モデルというのはなかったので、そういったモデルの作製に取りかかりました。
手順としては、ちょっと専門的な説明になるんですが… 内毒素であるリポ多糖(LPS)を注射器でラットの腹腔内に投与してLPSに感作させます。しばらく期間を空けた後、その感作させたラットの歯と歯ぐきの隙間に繰り返しLPSを滴下すると、免疫系が過剰に働き、歯周炎と類似した歯周ポケット形成や骨吸収が起こることを確認しました。この研究には大学院生時代から5~6年ほど時間を費やしましたが、動物モデルの作製法を確立できたことで、歯周炎の発症メカニズムや予防法の解明に役立っていると考えています。

――次に診療についてお聞きしたいのですけれども、先生ご自身が診療で心がけていることはどういうことですか。

吉永:歯周病は糖尿病や心筋梗塞などの全身疾患と関係が深いと言われていますので、口腔から全身を健康にしたいという思いは常に持ち続けています。また将来再発しないためにはどうすれば良いか、ということを患者さんと話しあうことが大切だと思います。歯周病は生活習慣病の一つであると考えられているので、治療後に同じような生活を繰り返していれば、また歯周病になり、場合によっては歯を抜かざるをえなくなることもあります。歯科は予防がとても発達している領域ですので、治療の後からが本当の勝負だと考えます。

――歯周病といえばある程度の年齢の方がかかるという印象がありますが、どうなのでしょうか。

吉永:いえいえ、じつは結構若いときにまず歯肉炎が起こって徐々に症状が進行し、35歳を過ぎた頃に歯周炎になるというのがわりと多いパターンなんです。だから出来れば30歳くらいまでには歯科医院に来て、定期的な健診を受けていただきたいです。「年だから歯が抜けるのは仕方がない」、「歯が抜けるのは老化現象だ」と考える方も多いように感じます。でも歯周病は普段の歯みがきや定期的な健診などで予防が可能で、80歳であっても手入れを怠らなければ歯が抜けるのを防ぐことができます。またむし歯に比べ歯周病はあまり痛くありません。いわゆる「沈黙の病気」ですね。でも症状が出ないうちに骨が少しずつ溶けていき、10年~20年とその状態が続いた結果として、歯が抜けるというのが歯周病です。若い頃から来院していただけると、骨がしっかりとしている分、歯周病に勝てる見込みも高く、歯科医師も意気込んで治療できますね。


診療では歯周病予防にも力を入れる

――本学医科歯科総合病院の歯周病科についてアピールポイントを教えてください。

吉永:本院の歯周病科は専門医や認定医の有資格者が多く、専門知識を持って治療にあたる体制が整っています。毎週の症例検討会を通して、科学的な根拠に基づいた治療を行うことを全員が心がけています。また勉強熱心な若い歯科医師が多いのも特徴のひとつです。

――若い歯科医師の話題が出ましたが、何か感じるものはありますか。

吉永:歯科医師になりたてで最初に苦労するのは患者さんが治らないことだと思います。治療後も患者さんが「痛い」、「治らない」と来院されるときは精神的にキツイですね。そんなとき若い歯科医師から「どうしたら治りますか?」と質問されますが、似た症状でも原因が同じとは限りません。原因が違えば治療法が変わってきます。むしろ「どうしたら治るか」ではなくて、「なぜ治らないのか」という姿勢で原因を追究する考え方が重要です。原因が分かれば、次はそれを取り除く方法を調べます。そのようにして、若いうちから原因を探りあてる診断力を磨くように心がけてほしいです。

――先にも話題に出た「なぜ」を追究する姿勢が大切なんですね。そういう考え方は大学院時代の研究を通して身につけたものでしょうか。

吉永:はい、そうだと思います。大学院の研究は今まで誰も知らないことを発見することなのですが、研究を進めるにあたって研究テーマの問題点を見つけて、その後に解決に向けた実験や分析を行います。診療も同じで、患者さんの「痛い」という訴えの原因を探りあてるところから治療がはじまります。大学院で身につけた考え方は臨床の現場でも大いに役立っています。


大学院生に研究指導中の一コマ

――大学院の研究は診療と密接に関わっているのですね。一方で学部生の教育についてはいかがでしょうか。

吉永:本学は口腔医学を掲げており、「口から全身の健康改善ができる」ということを学部生の頃からしっかりと意識づけできるように心がけています。講義では知識の教授だけではなく、臨床実習や国家試験へ向けた気持ち作りにも本腰を入れて指導したいと思っています。


講義では学生に質問しながら授業を進行

――具体的にはどのような内容になりますか。

吉永:学生間の相互実習の時間を増やせれば、と思っています。歯周病の検査であれば、相互実習でも可能ですし、実際のヒトの口腔に触れる機会が増えれば、より実践的な知識や技術が身につきやすいと考えています。

――最後に歯科医師を目指す学生へメッセージをお願いします。

吉永:歯科医師になるまでの道のりは長く、免許取得後も修練を積まなければならず、大変な仕事だと思いますが、治療後に患者さんが喜んでくれたり、感謝の言葉をいただけたりしたときは、とてもやりがいを感じます。患者さんの健康や幸せを目標にして、皆さんと一緒に仕事をしていきたいですね。

――吉永先生、本日はご協力いただきまして、ありがとうございました。

吉永准教授からのビデオメッセージ

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