都留 寛治 教授 インタビュー
――分かりやすい歯科材料学のために」
■ 小倉生まれで岡山学び
「『出身はどこですか?』ってよく言われます」
――先生のご出身は?
都留:小倉で生まれ育ちました。大学進学を契機に福岡を離れ、岡山で就職・結婚し、家も建てました。2008年から単身赴任で福岡にいるので、これまでの人生の半分を福岡、半分を岡山で生活していることになります。岡山では岡山弁だけでなく関西弁や広島弁も耳にします。元々北九州弁で今は博多弁も使うので、「出身はどこですか?」ってよく言われます(笑)
――大学で工学部を選ばれた理由は?
都留:モノ作りが好きだったからだと思います。
ただ、工学部のどの学科を志望するかについては、どれも面白そうで悩みました。結局、新設の生体機能応用工学科(当時)に入りました。新設という響きが良かったですね。先輩がいなかったので苦労しましたが、自分達のカラーに染めることができる喜びを体感できました。研究室配属では「生体材料」という言葉が魅力的でしたね。モノ作りでも人の役に立つモノ作り、それをダイレクトに感じることができる「生体材料」に心膨らみましたよ。
▲インタビューを受ける都留先生
■ 海外での学びと共同研究
「価値観の殻を破る貴重な経験ができたと思っています」
――先生は以前イギリスでも研究されていたとか…
都留:日本学術振興会の特定国派遣研究者の制度を利用して英国のケンブリッジ大学とアバディーン大学で研究を行いました。有機-無機ハイブリッド人工骨の研究を行い、今でも研究の1つの柱となっています。今思えば、住み始めはとても苦労しましたね。英国に到着して初日のホテルの予約が取れておらず気が滅入ったことは今でも忘れられません。銀行口座の開設、家の賃貸契約、電気・ガス・水道の契約、市役所での手続き、息子の小学校入学の手続など想像以上に大変でした。今ではすべて良い思い出です。何事も家族で一緒に乗り越えてきた当時の経験は、今の生活にすべて活かされていると思っています。
――若いときは苦労してでも海外で学ぶべきという信念があったということでしょうか?
都留:興味はありましたが、自分から進んで海外にと考える性格ではありませんでした。海外を意識するようになったのは岡山大学時代の私の恩師である尾坂明義先生の影響が大きいと思います。とにかく、学生のころから国際会議や海外の研究室訪問など色々と経験をさせていただきましたし、海外からも多くの研究者が研究室を訪問・滞在し交流を深めました。気づいたらそれが当たり前になっていたというのが正直なところです。
――そのようにいろいろ海外に行かれている中でよかったことは?
都留:その国の文化や習慣を学べるのはもちろんですが、海外から客観的に日本という国を観察できたのは良かったと思います。靴を脱いで家に上がる習慣とか和(協調性)を大切にするところとか、日本食、おもてなし、もったいない精神とか数上げればきりがありません。日本人であることに誇りが持てました。
一方で、欠点もよく見えました。日本人は細かいところまで気にしすぎです。商品の形が整ってないと売り物にならないとか、過剰包装などは典型的な例です。仕事の仕方も全然違います。日本にいると結構すごい速さで時間が過ぎていきますが、海外での時間はゆっくり過ぎていきます。効率的に仕事をこなすところなど学ぶべきところは多かったです。
人として生きていく上での豊かさとは何かなどについても考えさせられました。それまでに自分が持っていたちっぽけな価値観の殻を破る貴重な経験ができたと思っています。
■生体材料研究
「研究は予想していない結果が出たときが面白い」
――研究の内容についてすこし説明いただけますか?
都留:生体材料の中でも、特に体の中で骨の機能を代替する人工材料(人工骨やインプラント)の研究をしています。その他の工業用材料とは異なり、人工骨やインプラントは生体内で使用されますので生体が受け入れてくれる(拒絶しない)素材でしか製品が作れません。骨は人間の体を支えるだけでなく、カルシウムやリンを蓄える場所で有り、血液を作る機能も備わっています。将来、科学技術の進歩によりiPS細胞から歯や骨が再生できるようになるかも知れませんが、それらが安価で広く使われるようになるのは何十年も先の事になるでしょう。ですから、歯や骨を代替する人工材料の研究が今必要なんです。残念ながら人工骨は実際の骨には及びません。
――人工骨の実用はまだまだ先ということでしょうか?
都留:そんなことはありません。研究によって性能が向上した人工骨が使えるようになってきています。始めのころは人体を支える機能だけの人工骨であったのが、最近では、生体内で徐々に本物の骨に置き換わっていく人工骨なども研究され、製品化されています。我々も骨に置き換わる人工骨やセメントの研究を手がけています。研究ではまだ誰も手掛けていない新しいこと(世界初)に取り組まねばなりません。研究の結果、ほとんどは予想しているような結果がでます。それはそれで成果なのですが、予想していない結果が出て、それが価値ある発見に繋がることがあります。新たな発見に対する感動を味わえるのが研究の醍醐味で有り、最も面白いところです。でも、100考えて1当たれば良い方でしょうか。そういった意味で、研究って難しいし大変でもあるんですよ。
■歯学部での教育
「『歯科材料の欠点を知ることがとても大切』だと教えています」
――血液や骨を研究されていた先生が、歯学部に来られていかがでしたか?
都留:歯学部でも人工骨の研究テーマを継続できたので研究的に違和感はありませんでした。でも、教育的には教える内容が「無機化学」から「歯科理工学」に変わったので大変戸惑いました。「歯科理工学」は技工や臨床で使用する歯科材料・器械の学問です。もちろん、材料の専門家なので歯科材料の組成や性質を教えることは全く問題なかったのですが、それぞれの歯科材料が技工や臨床でどの様に使われるのか、当時は全く知りませんでした。歯科理工学を担当して2~3年は、講義の準備をする際、近くにいる歯科医師の先生を捕まえて「この材料は臨床でどのように使うの?」と質問をしまくりました(笑)。材料の専門家なんだから材料だけ教えればいいんじゃないと思われるかも知れませんが、逆に私が歯学部の学生なら歯科臨床のどこに使われる材料なのかを知らない状況でその材料の勉強をする気にはなれませんから。
――歯科材料を教える上でのポリシーは?
都留:本学では1年の後期から2年にかけて歯科理工学を学びますが、1年生は臨床実習を未経験ですので技工や臨床で歯科材料がどのように使われるかを全く知らない訳です。これは、2008年に歯学部に来て歯科理工学の講義を担当し始めた当時の私と全く同じ状況です。
あの時、周りにいる歯科医師の先生に質問したときの初心を忘れずに、講義では、どのように応用されるのかを分かりやすく説明してから詳しい材料の説明に入るように心掛けています。また、百聞は一見にしかずということで、動画やアニメーションも有効活用するようにしています。
――歯科医師になるために高校生の皆さんへ勉強のアドバイスなどありませんか?
都留: 歯学は生体に関わる学問なので理科の中では生物が一番大事と思っている学生さんが多いのではないでしょうか。たしかに間違いではないんですけど、大学で専門科目を学習するには物理と化学の基本的な知識がとても大切になってきます。歯科診療で日常的に使用するタービン、光硬化に使うLED、レーザー、歯科矯正、レントゲンなどを理解するには物理の知識が必要です。大学で習う生物系の学問や材料学はすべて化学の知識の上に成り立っているのですよ。歯科医師を目指すと決めたのなら物理と化学は真剣に取り組んで下さい。
そうは言いながら私も高校時代、物理と化学は苦手でした(笑)。そういう方々のために本学では、1年時の基礎科目のカリキュラムが充実しており、高校の物理や化学の範囲から専門科目に繋がる教育を実践していますのでご安心ください。
――最後に、歯科医師を目指す若いみなさんにメッセージをお願いします。
都留: 大学は勉強することが主な目的ですが、きちんとした社会人になるため、人間的に成長するための準備期間としてとても大切です。そういった意味で部活、アルバイト、ボランティア活動、海外留学と失敗を恐れず色んな事にチャレンジして欲しいと思います。将来、歯科医師として社会に貢献できるよう、小さくまとまらず沢山の経験を積んで頂きたいですね。
ただ、歯科医師国家試験をパスするには、1年時からそれなりの勉強を積み重ねておく必要があり、数多くの科目をこなす必要があるため、「歯科医師になるという強い意志を常に持ち続ける」ことを一番大切にして欲しいと思っています。この気持ちを持ち続ければ、苦手な科目も克服できると思いますよ。将来、歯科医師として活躍したいとやる気に満ちあふれた学生の入学をお待ちしています。
――今日は貴重なお話をお聞かせくださりありがとうございました。
都留 教授からのビデオメッセージ