古賀 千尋 教授 インタビュー
――先生のご出身はどちらですか?
古賀:福岡県朝倉市の出身で、福岡歯科大学の10期生です。
――歯科医になろうと思った理由を教えて下さい。
古賀:本当は、医科系に進むつもりはなく、東京の文系の大学に行きたいと思っていました。周りからは手先が器用だから歯医者に向いているって、子どもの頃からずっと言われていて、内科医である父や周りの方の勧めもあって本学に入りました。
――どのような学生生活を送っていましたか?
古賀:楽しかったですね。いい仲間がいっぱい出来て、今でも仲良く付き合っていますよ。
――本学を卒業して良かったことは何ですか?
古賀:卒業生の絆がとても強く、皆さん親切です。それぞれの地域に卒業生の立派な先生方がたくさんいらっしゃるので、心強いですよね。同窓生の繋がりの強さも、この大学の魅力のひとつだと思います。
――口腔外科を選ばれた理由は?
古賀:学生時代から興味があったんですよ。本田先生や升井先生、当時の古本教授の手術を見学させてもらったりして。ずっと口腔外科医に憧れていました。
――大学卒業後、久留米大学医学部口腔外科に進まれたのはなぜですか?
古賀:自宅から通えましたし、父が久留米大学出身だったこともあって、こちらの口腔外科に行きました。
――久留米大学ではどのような研究をされていたのですか?
古賀:大学院時代は、脳とストレスとの関係や抗不安薬など薬剤に関する研究を行っていました。当時、たくさんの精神科医の先生達と一緒に仕事をしているうちに、心身医学に興味を持ちました。現在、口腔心身症の患者さんを診察する機会がありますが、その時の研究や経験が役に立っていると思います。
――その口腔心身症とは、どういうものですか?
古賀:口腔内にはこれと言った器質的な異常はみられないのですが、舌や粘膜に痛みを感じたり、違和感や不快感がある状態をいいます。原因には、噛み合わせや口腔衛生状態、唾液の分泌異常など様々ありますが、ストレスや不安、不満症状などの心理要因も原因の1つと考えられています。そのような症状がある方は、ストレスによって引き起こされることが分からず、症状がよくならないものだからあちこちの歯科医院を転々とされている。そして最終的には、大学病院などを受診されるケースが多いのです。
――どういう治療をされるのですか?
古賀:認知療法といって、要するに1つ1つ原因の確認作業を行っていきます。患者さんとの面接で、「何ともないですよ、気のせいですよ」と言っても、実際患者さんは違和感があるものですから納得されません。1つ1ついろいろな検査を進めていくことで、患者さんはその結果を見て「私は何ともないんだ」と認知されます。私たちも一緒に病気を治していくという姿勢を示していけば、患者さんも安心され、症状も改善されていくのです。
――そういう患者さんを診療する際に先生が心掛けていることは何でしょうか?
古賀:患者さんの立場になって考えてみることが大切だと思います。自分がその立場だったらどうするかな、ということをいつも考えて診療しています。患者さんの気持ちを考えず治療を進めていても、決して症状は改善されません。患者さんの気持ちに寄り添って、私たちも共に治していくという心掛けが大事なのではないでしょうか。
――12月に開院した口腔医療センターについて教えてください。
古賀:やはり博多駅前という便利な場所にあるのが、1番の特徴でしょうか。来院される患者さんも多い日では60人近く、1日平均すると50人弱の方が来られます。患者さんは紹介の方もそれ以外の方もいらっしゃいます。近くに出来たからと気軽に来られる方も増えてきました。紹介状がなくても受診できるというのがひとつの特徴ですから、いろいろな方が来院されます。九州圏内では、熊本、大分、長崎から、さらに遠いところでは、四国や広島から来られる方もいらっしゃいますね。
口腔医療センター外観
――どのような診療が行われているのですか?
古賀:入院を必要とするような大きな手術はできませんが、それ以外の一般歯科診療から口腔外科診療に至るまで高水準の医療が提供できます。患者さんの中には近所の歯医者さんでは難しくて親知らずを抜いてもらえず、紹介された大学病院にもなかなか行けなくて、そのまま放置していましたと言う方もいらっしゃいます。平日は19時まで診療していますので、昼休みのちょっと開いた時間や仕事帰りに受診できるのは、皆さんにとても喜ばれているみたいですね。また各科の専門の先生が時間をかけて診察できますので、抜くしかないと思われた歯も抜かずにすんだ方が何人もいらっしゃいます。そういった方からも喜ばれています。
口腔医療センター診察室
――口腔医療センターで行われる生涯研修プログラムとはどのようなものですか?
古賀:主に開業医の先生方を対象に、講義と実習を織り交ぜた様々な研修プログラムを開催していまして、今月は歯周治療と口腔外科のプログラムが行われています。口腔外科の講習会では、外科処置をする際の救急救命処置や心肺蘇生術といった専門の先生による講義もメニューに組み込んでいます。本学を卒業した先生だけではなく、他の大学出身の先生も受講されていますよ。講習費もリーズナブルですし、今後はもっとたくさんの先生方に受講していただきたいですね。
口腔医療センターセミナー室
――今後、口腔医療センターをどういう風に発展させていきたいとお考えですか?
古賀:地域に根付き、患者さんがもっと気軽に治療を受けることができ、皆さんに出来てよかったといわれるような医療施設にしたいですね。近隣の開業医の先生とももっと連携していきたいですし、開業医の先生もセンターを便利に活用してほしいと思います。開業医の先生では難しい治療もここで私たちと一緒に治療していく、いわゆるオープンホスピタルとして機能することを目指していますので、福岡はもちろん九州、沖縄など多くの方に利用してもらえるよう頑張りたいと思います。
――本学が提唱する口腔医学について先生の考えを聞かせてください。
古賀:歯科開業医の先生方は難しい症例の患者さんを医科に紹介する前に、まず私たち口腔外科に紹介することが多いのですが、実はその方は白血病であったとか、別の病気がわかることがあるのです。歯科医といえども、全身の病気について正しい知識と診断能力を持っていなければいけません。人間の体は部分・部分に分けることは出来ませんので、医学の一分野として歯学を学ぶ「口腔医学」という考え方は非常に大切だと思います。医科と歯科の垣根を取り払い、歯科からのアプローチだけではなく逆に医科からのアプローチもたくさん必要となってきますので、口腔医学というテーマを掲げて活動することは、双方を融合する機会にもなり大変有意義なことだと思います。
――最後に、後輩の皆さんへ一言お願いします。
古賀:歯科医師はとてもやりがいのある仕事です。今は歯科医師過剰といわれていますが、これから歯科医師が足りない時代が必ず来ると思います。福岡歯科大学は同窓会の絆が非常に強く、卒業後は同窓の先生方がいろいろ親身になって相談に乗ったり助けてくださるので、やはりこの大学に入ってよかった、卒業してよかったと思われるでしょう。私も福岡歯科大学の卒業生として誇りをもって仕事をしています。困ったことがあったら、いつでも相談してください。
――本日はお忙しい中、ありがとうございました。