田中 芳彦 教授 インタビュー
☆今、世界情勢と経済状況に関心をお持ちの田中教授。今回は、世界情勢と経済状況の関係性はまるで研究のようで最近は経済の勉強をされているという田中教授にお話をお伺いしました。
――先生のご出身は?
田中:生まれは関東なのですが、高校時代は鹿児島でたくさんの鶴がシベリアから飛来することで有名な出水というところで過ごしました。両親も鹿児島出身なので自分にとっても鹿児島がふるさとだと思っています。
――学生時代はどんな学生だったんですか?
田中:高校卒業後は、熊本大学医学部へ進学したのですが、野球部に入りましたので野球とアルバイトの毎日でしたね。もちろん学生の本分である勉強は手を抜くことなく真面目に取り組んでいましたよ(笑)誰よりも遊んで、誰よりも勉強していたのではないでしょうか。アルバイトは、在学中の3年生の夏休みにヨーロッパへ旅をしたいと入学当初から考えていましたので、その資金を貯めるために専門学校の非常勤講師などをしていました。近い将来、アメリカには研究者として留学することもあると思っていましたので、学生のうちにヨーロッパを見て回りたいと思っていました。
計画通りに資金も貯まった3年生の夏、2か月間ほどでしたが少ない所持金と帰りの航空券だけ握りしめてヨーロッパをバックパッカーとして旅してまわりました。各国で多くの同世代の人々と出会い、彼らの生き方や活躍している様子に強い感銘を受け、私にとって大変貴重な経験となりました。
――先生が野球部だというのは意外でしたが…
田中:私もそれまで部活は入っていませんでしたし、スポーツも得意なほうではなかったんですが、野球が好きではありましたので、医学に身をおく者としてチームワークが求められるスポーツがやりたかったため、野球部に入りました。西日本医科学生総合体育大会で優勝するほどの強いチームで野球経験者が多い中、頑張ってレギュラーを獲るまでになっていましたね。
――先生は真面目で何に対しても熱心で、何よりこうしたいと思ったことを実行する行動力がすごいですよね。
田中:目標を決めてそれに向かって自分がどうすべきかを常に考えて行動するようにしています。だから、学生にも目標を持ってもらい、それを叶えるためには今何をしないといけないのか、この先何をしないといけないのか自らよく考えて毎日を過ごしてもらいたいですね。目標設定は何でもいいんです。高い志を掲げ、それこそ実現不可能な夢でも構わないんです。夢を実現するために自分にできることを自分で考えてほしいんです。
インタビュー中の田中教授
――先生はなぜ医学部に進学されたんですか?
田中:ずっと人の役に立つ仕事をしたいと思っていまして、医師であれば多くの方の病気を治す仕事でお役に立てるんではないかと思ったんです。だからこそ、より人の役に立つ臨床医で、かつ、全身を診ることができる外科を専門として選んだんです。卒業後は4年ほど熊本大学で外科医として診療に従事しておりました。
――医師としてご活躍されていた先生ですが、なぜ研究者へと方向転換されたのですか?
田中:人の役に立ちたいという思いから医師を志し、医師として患者さんたちを助けたい、どうしたらより多くの患者さんを救えるかというのが自分の使命だと思っていましたから、外科医として救急の現場から僻地での医療まで積極的に取り組み、いろんな経験を積んでいました。当時は、まさか自分が研究者の道へ進むとも思っていなかったくらいですしね。
ただ、いろんな経験をするなかで現代医療の限界というものを次第に強く感じるようになっていました。どうしたらより多くの患者さんを救えるかと考えているうちに、基礎研究で成果を上げ、細胞レベルで治療ができるようになれば、より多くの患者さんの治療に貢献できるんじゃないか…と強く思うようになって大学院へ進む決心をしたんです。
研究をしている田中教授
――将来的にアメリカへ留学すると学生時代に考えてらっしゃったようですが、本当にアメリカへ留学されていたんですよね?
田中:はい。熊本大学の大学院へ進学して学位を取得しました。大学院時代に実際にアメリカでの学会等に参加して海外の著名な医学者と交流する機会に恵まれ、自分にもできることがまだまだあるなと自信が湧いたんです。実際に幾つかのアメリカの研究機関を自分の目で見学させてもらって、「ここで自分も研究をやりたい」と強い“あこがれ”を抱くようになりました。大学院修了後、県内の病院へ就職したのですが、研究への思いがさらに強まり、アメリカへの留学を決意しました。アメリカ カリフォルニア州サンディエゴのLa Jolla Institute for Allergy and Immunologyに5年間留学していました。
当時は、すでに3人の子どもを抱えておりまして、幾つかのアメリカの研究機関と交渉し、自分自身の目で確かめたその“あこがれ”の機関を選び家族全員で渡航しました。
――先生はアメリカへの留学も有言実行されていますが、留学中には学会賞も受賞されているんですよね?
田中:そうですね。アメリカでは、日々研究に励み一定の成果をあげることができましたので、着実に評価されポストを得ることができました。アメリカは実力社会なので、年俸は大リーガーと同じように毎年交渉になります。5年間で2倍以上にすることができました。また留学中には、大変光栄なことで日本人としては初めての授与という米国免疫学会研究奨励賞を受賞しました。
アメリカでの研究生活は大変快適でしたが、子どもたちがアメリカに在住する期間が5年を過ぎてしまい、このままでは言葉や考え方がアメリカ人になってしまうという危機感を覚え、研究を続けたい気持ちはありましたが、帰国することにしたんです。
帰国に際しては、帰国子女を受け入れてくれる学校でなければいけませんでしたので、子どもの学校にあわせて私たちも福岡市に住むこととなりました。
米国免疫学会研究奨励賞受賞時の様子(左端が田中教授)
――帰国後はどうされていたんですか?
田中:私自身は研究を続けたかったため、研究環境が充実しており、切磋琢磨する仲間が大勢いる九州大学生体防御研究所に身をおかせていただきました。そこで研究と教育に携わっておりまして、ご縁があってこの福岡歯科大学へとやってまいりました。
――先生が取り組まれている学生教育について教えてください。
田中:私が担当する8名の1年生の教育指導に努めています。毎週月曜の朝8時半にフレッシュマンゼミというのを開催しているんです。『7つの習慣』という本と私が作成したプリントを使うなどして学生と交流を図っています。こういう取り組みを実施していると来てくれる学生とそうでない学生と出てくるんです。強制的に来させるようなことはしてません。それだと学校の授業と同じですから意味がないんで。だいたい毎回8名のうち半分は参加してくれています。来てくれる学生はやる気も意識レベルもとても高いのでますます鍛えられますし、来てくれない学生には機会があるごとに声かけをするなどしてどうすればスイッチを入れられるだろうと奮闘しています。ただ、8名だけに実施してもはじまらないと思いましたので、4月からは自分の講義の中でプリント配布の時間を使って同じような取り組みを試みとして実施しています。この『7つの習慣』というのは本当に面白いんですよ、紹介したら時間がなくなるのでぜひご覧になられてください。
『7つの習慣』(スティーブン・R・コヴィー著)
――先生は大学院生の教育にも力を入れているそうですが―。
田中:現在、私たちの研究室に所属している2名の大学院生を対象に毎週2回早朝に輪読会を実施しているんです。毎回20ページの教科書抄読を行っております。初めは私を含めて3名でスタートしたんですが、今では分野の教員全員や口腔歯学部学生が自主的に参加するようになり、毎回担当を変えながら実施しています。自分の担当のときには自分が教科書を読まなくてはならないので勉強しなければなりませんし、聞く方も勉強してこなければついていけない。そんな状況が自然と学習する機会や場というものを作り上げてくれます。専門書なので1冊を一人で読もうなんてことは難しいことですが、皆で集まってやればできるんです。苦しい時も仲間がいれば乗り越えられるんです。そういうことも学んでほしいと思っています。
研究するのも大事だけれども根底にある基礎的な背景であるとかそういったものが大事だと思うんです。これらのことに取り組んでいるうちの大学院生は確実に力が付いていると思っています。
輪読会で使用している教科書と出席カード
――先生ご自身の研究における展望をお聞かせください。
田中:これまでの自身の臨床医と基礎医学研究者としての経験を活かして、臨床医学的ならびに基礎医学的なアプローチによって口腔医学に関する問題を的確に把握し、今後は自分が持つ全身管理の知識で病態を明らかにし、将来は口腔免疫学に活かすことができるであろう研究をしていきたいと思っています。教室スタッフは微生物そのものの専門家で、私はヒトそのものを専門としています。今、それぞれの力が合わさって、全く新しい研究の世界が広がり始めています。からだの中にはたくさんの微生物が共生しており、口腔内には数千種類の常在微生物が生息しています。
例えば、歯周病はそのうちの特定の微生物が原因で病気になることが分かっています。病気の発症には免疫応答が関わっていることが知られているのですが、どのような機序で病気になるのかまだよく分かっていません。そこで、1)「病原微生物」そのものを対象にした研究と、2)「宿主免疫応答」を対象にした研究と、3)「病原微生物」と「宿主免疫応答」の両サイドからの研究、という3つの視点から研究を進めています。それぞれの研究者の持ち味を活かしているので、新しいことが分かり始めています。
本学が目指している“口腔医学”と同じベクトルで、全身を視野に入れて研究を展開しています。
――先生の関心がある世界情勢と経済状況とは?
田中:世界の各国で様々なことが起こる度に、日本や世界での経済状況が連動してまるで生き物の様に変化していく様子はとても面白くて興味が尽きません。一見、何の関係もないように思える世界情勢が経済へと波及していく様子は、人間の心理状況を反映していると同時に、我々が対象としている生命現象につながるものがあると感じます。多くの場合には、世界情勢と経済状況の関係にははっきりとした論理性が反映されているので、我々の研究においても1つの実験結果から連動している事象をみつけていく作業はとてもよく似ていると思いますし、研究のヒントにもなります。
――先生からひとこと。。。
田中:今の学生たちは勉強のやり方を誰からも教えてもらっていないから知らないんじゃないかと―。基本的なことなんですけど、目から読んで見るだけでなく、実際に書いたりするでしょ?手を動かして実際に目と頭と体を使ってやるのが大事だと思っています。講義中にもよく言いますが、もっと遠くを見て生きなさいと言っているんです。歯科医師として1年後、5年後、30年後…とかに自分がどんな歯科医師になっていたいのかというのを今、この場で想像してくださいと―。患者さんから尊敬される歯科医師になりたいのであればだんだんと何をすべきかが分かってくるんです。国家試験に合格するのは当然のことであって、CBTなども途中に越えていかなければならい通過点であってゴールではないんですから、そういう気持ちで臨んでくださいと言っています。高いところに目標をもてば自然とそこまであがってくるんじゃないかなぁと。学生たちは勉強するにしても研究するにしても、一生懸命すぎて狭いところに入り込んでしまうので、私ができることはそこから引っ張り出してあげて広い視野で考えさせるように努めています。頭で考えて目標が決まれば、徐々にスイッチが入ります。実は、次が一番難しいんですが、実際に身体で実行する勇気をもつんです。私もまだ修行中なんですけどね、、、(笑)
教室スタッフはとても優しい雰囲気です。皆さん、私たちと一緒にたくさん夢をみて、勉強や研究を楽しみませんか!
――ほんわかした雰囲気の田中教授ですが、研究や学生教育に対するお話をお伺いするととにかく強い信念をお持ちで、ご自身の取り組みについても熱く語ってくださった田中教授。インタビューにご協力いただきましてありがとうございました。
田中教授からのビデオメッセージ