今井 裕子 准教授 インタビュー
――先生のご出身はどちらですか?
今井:出身は北九州市の八幡です。閉園してしまいましたが、スペースワールドが有名でしたね。幼少期はよく遊びに行っていました。小中高と北九州市で育ち、大学は鹿児島大学に進学しました。
――どのような幼少期・学生時代でしたか?
今井:小学生から中学生までは吹奏楽部に所属していて、クラリネットを演奏していました。幼少の頃から高校生になるまでずっとピアノも習っていたので、音楽はすごく身近でしたね。合唱コンクールではよくピアノの伴奏を担当していましたよ(笑)。高校では、別のこともしてみたいと思い、弓道部に一時期在籍したこともあります。
(△小学校4年生時の吹奏楽コンクール(写真中央))
――歯科医師を目指したきっかけはありますか?
今井:小さい頃から歯科医師を目指していたというわけではないのですが、医療の道に進みたいという思いは漠然とありました。幼少期から理系の科目が得意だったことと、親戚に医療系で働いている人が多かったということも影響しているかもしれません。本格的に歯科医師になろうと決めたのは大学へ進学するときでした。でも、受験ぎりぎりまで医学部へ進んで医者を目指すか迷ってはいました(笑)。
――歯学部卒業後は、訪問歯科をご専門にされてこられたのでしょうか?
今井:卒業後は九州大学病院にある特殊歯科総合治療部という基礎疾患を持っている方を専門で診る診療科を選びました。大学在学中から、いずれ超高齢社会が到来し、有病者の方を治療する機会が増える時代が来るというのは漠然と感じていて、これから先、こうした分野は非常に重要になるだろうと思っての選択でした。
それから、卒業後4年目に、当時の上司の勧めもあり、福岡大学医学部生理学講座という基礎研究の分野へ勉強をしに行きました。そこから電子顕微鏡を覗いて細胞を研究する、いわゆる“リケジョ”な生活を3年間続けましたね。臨床での勘が鈍らないように診療と二足の草鞋で通っていたので大変ではありましたが、基礎研究分野の世界に触れることにより、多角的な目線で患者さんを診察できるようになったので、今思えばよかったなと思います。
(△台湾での国際学会会場で現地の踊り子さんと)
――訪問歯科センターのことをわかりやすく教えてください。
今井:訪問歯科センターでは、病院や施設、ご自宅を訪問して歯科治療を行います。先程も述べましたが、超高齢社会の到来により、有病者の方が増えています。比例して訪問診療を希望する方も増えていますが、訪問看護や訪問介護などの治療と比べて、歯科治療は後回しになりがちなのが現状です。実際には自分の歯でご飯を噛みたい、しっかり食べたいけれど、なかなか歯医者さんに行けないから居所で歯科治療をしてほしいという人も大勢いらっしゃるので、訪問歯科は今後、ますます必要とされる分野だと感じています。
また、同時に訪問歯科治療には難しさもあります。病院での治療と違い、患者さんのご自宅での治療となると、患者さんの容態が急に悪くならないように、よりいっそう慎重に治療を行う必要があります。ですから、病院内で治療するとき、施設にお伺いして治療するとき、ご自宅にお伺いして治療するときなど、それぞれの場所によって治療方法が変わってきます。そうしたときは各セクションとの連携の大変さを感じます。本学の医科歯科総合病院には、多くの診療科があるとともに、各科の垣根が低く、とても連携が取れているところが良いところだと思います。
――先生が診療で大事にされていることはどういったところでしょうか。
今井:コミュニケーションが一番大事だと思っています。訪問歯科は前述したように、病院や施設、ご自宅を訪問して診療を行います。特にご自宅で診療を行う場合は、患者さんご本人だけでなく、ご家族の方もその場にいらっしゃいます。時には、ご家族の方が希望される治療方法があっても、現状と乖離している場合があるんです。だから、すべて希望通りにはいかなくて、「今この状態だから、患者さんにとってこの治療が一番」というすり合わせを患者さんご本人とご家族とで行っていかなければなりません。治療方針を決定する際に必要となるのがコミュニケーションです。難しいなあと思いながら、日々勉強に励んでいます。
――これから訪問歯科医を目指す歯科医師へのアドバイスをお願いします。
今井:患者さんとの関係性を大事に築いてほしいというのがありますね。私も研修歯科医になりたての時に、経験年数も少なくて、女性というだけで、患者さんにバイアスが掛かってしまい、「この先生で大丈夫だろうか」みたいな感じで見られることがありました。でも、そこで諦めずに「あなたのことを考えて、いろいろ勉強して、なんとか一生懸命やろうとしてるんだ」という姿勢を見ていただければ、患者さんには熱意が必ず伝わります。そうすると不思議と患者さんもついてきてくれるのです。「最初のあの時は先生も全然ダメだったもんね」とか言いながら、十数年通ってきてくれた患者さんも多くいます。ですから、一生懸命に患者さんのことを考えて信頼関係を構築するということを大事にしてほしいですね。
――福岡歯科大学の学生さんの印象はいかがでしょう?
今井:純粋で素直な学生さんが多い印象です。授業も一生懸命聞いてくれますし、質問もよくしてくれます。第5学年になると臨床実習で、実際に外来に出てアシストについてくれますが、一生懸命にメモしたりして、すごく勉強しようとしている感じが伝わってきます。
ただ、私が診ている患者さんというのは、有病者の方がほとんどなので、心臓にペースメーカーを持っていたり、モニターをつけていたりするときもあります。そのような場面では、学生さんはちょっと構えてしまうような感じになってしまいますね。「もっとどんどん来ていいんだよ」と言っても、少し後ずさり気味で…。でも、有病者の患者さんと接するときこそ、患者さんと仲良くなる必要があります。コミュニケーションを前向きに取ってくださる患者さんも多いんです。積極的にコミュニケーションをとり、患者さんのことを理解しようという姿勢を身につけてくれたらいいなと思います。
――最後に、先生の今後の展望を教えてください。
今井:今のスタンスを崩さずに診療していきたいと思っています。また、診療を行う中で、まだまだ若い歯科医師の先生に浸透していない有病者に関する知識などがあると感じるので、私がこれまで培った知識や経験などを伝えていきながら、診療が難しい患者さんなどを積極的に診ていけたらいいなと思っています。 研究については、これまでしていた心臓などの循環器に関する研究を少し広げていけたらいいですね。 また、今は外科のカンファレンスに参加させてもらっています。化学療法などの治療を行っている患者さんと接する機会も多いので、そこで学んだことを活かした新たな研究にも取り組んでいきたいです。
――本日はお忙しい中、ありがとうございました!
今井 准教授からのビデオメッセージ