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学部・大学院

日髙 真純 教授 インタビュー

「人それぞれの違いをDNAで解析する遺伝子のスペシャリスト」
2011.11.15
細胞分子生物学講座 分子機能制御学分野
日髙 真純 教授

――理学部の生物学科に進学されたきっかけは何ですか?

日髙:高校の時に生物の授業でやった遺伝の勉強が面白くて、そういった関係のことがしたいと思ったのがきっかけですね。昔から生き物が好きだったということもあります。

――大学院では医学系研究科に進まれたのですが、医学部に再入学されたのですか?

日髙:いいえ、医学部に再入学したわけではなく、卒業論文と修士課程のマスター論文の作成のときにお世話になった先生が医学部に移られたので、その先生と仕事を継続するために博士課程は医学部に入ったというわけです。ですから、研究は修士課程でやった内容を継続してやっていました。

――アメリカ留学について話していただけますか?

日髙:大学院を修了して、愛知県の基礎生物学研究所で助手をしていたときに米国のコールドスプリングハーバー研究所に留学しました。僕は大腸菌を材料にDNA(遺伝子)複製の研究をやっていましたので、その分野の最先端の研究をされている先生がいらっしゃるこの研究所に博士研究員として移りました。留学中は実験材料をヒト培養細胞に変えたので、そういった意味で教えてもらうことがいっぱいありました。

――先生は分子生物学がご専門だとお聞きしていますが、わかりやすく教えて下さい。

日髙:人それぞれに見かけも体質も違うわけですが、その違いがDNAのどのような違いから反映されているのか、そこを相関づけて解析していくのが分子生物学です。つまり、何かの違いがあったときに、その違いはDNA、つまり遺伝情報のどこにあるのかということを明らかにしていくわけです。
私はその中で、これまでDNAのコピーをつくる仕組み、DNAの組換え、傷ついたDNAの修復の仕組みなどを研究してきました。今は、DNAが傷つき、そのまま放っておくとがんになってしまう危険のある細胞を除去してしまおうという仕組みを研究しています。つまり、アポトーシスの研究です。

――アポトーシスという言葉がでてきましたが、先生のご研究についてもう少し詳しく教えて下さい。

日髙:アポトーシスという言葉はギリシャ語に由来していて、枯れ葉などが木から落ちるという意味らしいです。身近な例をあげれば、オタマジャクシがカエルになるときしっぽがなくなりますよね。これもアポトーシスが関係していて、成長する過程で「しっぽはもういらないから除去しましょう」というプログラムが働くわけです。スイッチを押したら、それまで眠っていたプログラムが細胞を殺すために動き出すって感じです。それでアポトーシスのことを「プログラム細胞死」と呼んだりもします。
今僕がやろうとしているのは、アポトーシスのプログラムの解明です。このプログラムには「細胞を殺す」ための指令をもつ遺伝子が数多くセットされているのですが、どのような遺伝子がセットされているのか未だ良くわかっていません。それと、このプログラムは、除去したい細胞を排除する時にのみONになるのですが、どうやってこのプログラムの始動がコントロールされているのかその仕組みもよくわかっていません。今はこういったことを中心に分子のレベルで明らかにしようと一生懸命努力しています。

――アポトーシスのご研究で国際的に注目されているというお噂を伺いましたが・・・。

日髙:アポトーシスの機能を持つ新しい遺伝子を見つけました。僕がそれを見つけたとき、その遺伝子は未だ機能が分かっておらず名前すら付いていなかったので、僕たちでMapo1*(メイポ・ワン)って名前をつけました。これって結構研究者冥利に尽きることなんですよ。最近ではこの辺りの研究が進み、BHD症候群*の家系の患者さんの解析から見つかった発がん抑制に関わるタンパク質とこのMAPO1タンパク質が複合体をつくって働いていることが分かってきました。まさしくアポトーシスに関連するものとして見つけた遺伝子の機能が、発がんの抑制とどうも関係がありそうだということが明らかになってきたわけです。今年の5月にBHD症候群の国際シンポジウムがオランダであったのですが、そちらの学会から発表してほしいという依頼があったので発表してきました。

* Mapo1 = O6-Methylguanine-induced apoptosis 1
* BHD症候群 = Birt-Hogg-Dube症候群:肺に嚢胞(のうほう)や、大腸にポリープができたりする遺伝性の疾患

――今後のご研究の展望について聞かせて下さい。

日髙:今の研究を応用面で使えるように発展させたいですね。それと、今はアポトーシスの研究をしていますけど、ある程度解き明かせたら、次の何か新しい生命現象にも踏み込めていけたらなって思っています。何か新しい現象を見つけて、その現象についての答えをDNAの側から攻めて見つけていきたいですね。

――先生は生物学を担当されていますが、大学では高校と違うことをやっていらっしゃるのですか。

日髙:生物学としては高校や大学といった仕切りはないと思います。実際に本学では、一番基本的な細胞の仕組みのところからやっています。ただ、歯学部の学生さんが1年生の時に生物学を勉強するわけですから、歯科医師になるにあたり最低限知っていてほしいこと、そしてしっかり理解しておいてほしいことに関しては、高校の時よりも少し掘り下げて講義しています。

――分子生物学での実習はどんなことをしていらっしゃるのですか?

日髙:実習は2年生の時に分子生物学の講義と並行してやっています。遺伝子の本体はDNAであるというのを実際に実験的に検証してもらうような実習です。具体的には、大腸菌を2種類用意します。一方は抗生物質に対して抵抗性を示す遺伝子を持っている大腸菌、もう一方はその遺伝子を持っていない大腸菌です。実験では、抗生物質に抵抗性の大腸菌からDNAを取ってきて、それをその遺伝子を持っていない大腸菌に入れます。そうすると、従来は抗生物質で死んでいた大腸菌が抵抗性を獲得するといった現象を観察してもらっています。

――授業ではどんなことに心がけていらっしゃいますか?

日髙:木を見て森を見ずになって欲しくないなと思っています。今やっている部分が全体のどこに位置しているかを反復して言うように心がけています。授業の最初に必ず概要的な話をして、今やっているのは全体の流れの中のこの部分だよと何度も言っています。タンパク質の名前をただ覚えるだけでは意味がありませんので。

――本学の学生に何か一言お願いします。

日髙:好奇心をずっと持ち続けて欲しいですね。好奇心を持っていれば、一生懸命に観察するし、そうすれば新たに気づくことがたくさんあるだろうと思います。

――ところで、先生の御趣味は?

日髙:最近、園芸にはまっています。(笑)植物は動かないので以前は興味がなかったのですが、引っ越した先にたまたま広めのテラスがあったので、植物でも育ててみようかなと思ったのが始まりです。今では、すっかりはまってしまいました。植物は動かないと思っていたのだけど、ギボウシとかが冬は完全に枯れたようになっているのに4月になるとかわいらしい新芽を出すとか、そういうのを見ると感動ですね。今はせっせとポインセチアの短日処理に励んでいます。

――スポーツは何かしていらっしゃるのですか?

日髙:学生のころはテニスを愛好会でやっていました。本学ではバレーボール部の顧問をやっています。僕はバレーボールの経験はありませんので指導は出来ませんけど、応援団長としてオールデンタルにも行っています。今年は女子が優勝しました!応援していると10才くらい若返ったみたいに熱くなりますねぇ。

今後も新しい発見が先生のご研究で見つかることを期待しています。本日はありがとうございました。

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