玉置 幸雄 教授 インタビュー
―もし生まれ変わっても矯正歯科医を―」
――突然ですけど、先生はトランペットの演奏ができるとお聞きしたのですが…
玉置:はい。中学高校時代に吹奏楽部でトランペットを演奏していました。大学卒業後も社会人サークルでしばらく演奏していたので、トランペットの演奏歴でいうと20年近くになるかもしれません。でも、楽器演奏ということでは、ピアノは4歳のころから続けていて、今も自宅で毎日1~2時間程度弾いていますよ。1日練習を怠ると取り戻すのに3日はかかるので、取り戻す時間を作らないように継続した練習が習慣化しているって感じですね。
――4歳からピアノを続けられているのはすごいですね!その経験がグリークラブ(※グリークラブ:入学式で校歌を紹介する等の活動をしている教職員有志による合唱団)での活動にも繋がっているのですね。
玉置:拙(つたな)いピアノ技術なのでそんな大それた事を言える立場ではないのですが、練習の時には日頃の経験を活かして他のメンバーを指導しています。メンバーは毎年変わることもあるため、最初は音程もバラバラですが、何度も練習することで入学式当日には一体感が出て素晴らしい合唱となります。今は新型コロナウイルスの影響でグリークラブの活動はしていませんが、再開できるようになった際にはまた盛り上げていきたいですね。
▲グリークラブの合唱で指揮を執る玉置先生
――さて、本題ですが・・・、先生が歯科医師になろうと思った理由、また教員の道に進まれた理由について教えてください。
玉置:実は物理学にも興味があったため、大学で物理学を学ぶか、歯学を学ぶかで迷っていました。結果的には歯科医師である父親の強い勧めもあり、歯科医師を目指して福岡歯科大学を受験しました。
その後、研修医や大学院での経験を経て指導するということにも興味を持ち、いろいろ考えた末、大学で教員として働くという今に至っています。
――福岡歯科大学での学生生活はどうでしたか?
玉置:今はもうありませんが、当時は福岡歯科大学生が住んでいる寮で生活していました。そこで同級生や個性の強かった先輩方と過ごしていくことで、団体生活の大切さを学びましたね。あとは読書も好きな方なので休みの日は図書館で過ごしたりもしていました。部活動はミュージックアソシエーション(MA)部と卓球部(現在は廃部)に所属していました。熱い部員もいたので自然と精神力も鍛えられました。
――先生が矯正歯科学を専攻したきっかけを教えてください。
玉置:高校生の時に歯科医師の父親がワイヤーを使って治療していた姿を見たのがきっかけでした。当時は「矯正歯科」も現在ほど一般に浸透していない時代で、「あれは何をやっているんだ?」と好奇心を刺激されました。ワイヤーを細かく調整する手先の器用さも必要という点で自分に向いているのではないかとも思ったんですよ。。
▲患者さんの歯に装着するワイヤーを屈曲する様子
――続いて研究についてお聞きしたいのですが、「これは面白い!」と思った経験はありますか?
玉置:大学院生の頃、研究テーマで必要だったため九州工業大学で情報工学を学ばせていただいていたのですが、数値のパターンをコンピューターが学習し解答を推定するのを見た時には衝撃を受けました。データを学習して解析を行うという、今でいう「AI」の先駆けですね。20数年前の当時は「AI」という言葉すら浸透していなかった時代ですし、人間が予想した解答とは異なる時もあったので面白かったです。
――確かに面白そうです!では大学院での研究は「楽しかった」という感じでしょうか?
玉置:どうでしょう。楽なことってあまり無かったと思うんですよね。だから大学院で研究することで忍耐力が鍛えられました。成果をあげるには長期間努力することも必要だったので。ただ、好きなことを学んでいるのでなんとかやれましたし、それと同時に「知性」が磨かれたと思っています。。
――現在取り組んでいる研究について、高校生にもわかる内容でお話いただけますか?
玉置:簡単にいうと「AIに経験学習させ、学習内容をベースに診断支援システムを構築する」という研究ですが、大雑把過ぎますかね(笑)。通常、矯正歯科は治療が終わるまでに数年かかり、経験の浅い歯科医師は、自分で行った治療の結果を次の治療にフィードバックするのに、そのさらに数年以上かかることになります。このため、これまでの診療データをAIに取り込んでおいて、将来的にはAIが過去の似た症例をピックアップして「この治療はこの方法でやってみたらいいのでは?こういう感じの治療結果が予想されます」と提示してくれるようなシステムを作ろうという研究です。
――先生が診療する際に心がけていることを教えてください!
玉置:患者さんに正しいかみ合わせになってもらえるように全力で治療とサポートをさせていただきます。
しかし、治療によっては長期間に及んだり、高額な費用が掛かることもあるので、患者さんにはいろいろと我慢してもらわないといけないこともありますし、治療の際には痛みが生じることもあったりします。メリットだけでなくデメリットもわかりやすく丁寧に説明し、患者さんに納得していただいたうえで診療にとりかかることを心がけています。
▲矯正歯科診療科のメンバーと
――診療の良い点、悪い点どちらも丁寧に説明し、納得してもらうことが大切なのですね。 先生が診療科長を務めている矯正歯科の特徴について教えて下さい。
玉置:初診から検査を開始した患者さんは、矯正歯科所属のメンバー全員参加の症例検討会で詳しく検討して、そこで出た様々な意見を集約した最適な診療方針を提案しています。誰か一人の先生の考えで診療がなされたりすることはありません。基本的に診療はベテランと若手の歯科医師がコンビを組んで行うため、患者さんに安心して治療を受けていただけます。そうすることで、診療を通してベテラン歯科医師は指導力向上に、若手歯科医師は技術力の向上に繋がっています。
▲矯正歯科の若手歯科医師の診療は基本的に二人一組で行っている
――患者さんのことだけでなく、矯正歯科全体のことも考えて診療を行っておられるのですね! 昨年9月より医科歯科総合病院は新病院となり数か月が経ちましたが、診療面で変化はありましたか?
玉置:例年よりも本当に多くの患者さんにお越しいただいており大変感謝いたしております。患者さんにとっては診療を受ける場所への経路がわかりやすくなったのではないかと思います。診療ブース番号も大きく書かれていてわかりやすいとご意見を頂いておりますし、我々にとっても診療スペースが広いのでゆとりを持った診療が行えていると思います。あとはクラシックのBGMが診療室に流れているため患者さんの気持ちも和らいでいるんじゃないでしょうか。
――先生は学生への教育に対しても熱心だとお聞きしましたが、学生に指導する際にはどのようなことを心がけておられますか?
玉置:多くの学生が矯正歯科に興味を持ってもらえるように、矯正の魅力をなるべく伝えるような指導をしています。あとは学生に「考えさせる」授業を意識していますね。矯正歯科を身近なものと意識してもらいたいので、動画や器具を使って問いかけたりしています。あとはその日の授業の復習も兼ねて毎回小テストを実施しています。ただ、私の小テストはボリュームがあるので一部の学生には大テストと呼ばれていますが(笑)、成績向上に結び付いていると思います。
▲インタビュー中、模型を使ってかみ合わせについて 説明している玉置先生
――現在コロナ禍という事もありオンラインでの授業も行っていると思いますが、対面授業と同じ教育効果を保つためにどういった点に工夫されましたか?
玉置:オンライン授業は、何度でも見返す事が可能だと思うので、普段の授業での反省点を取り入れながら入念に資料を作成しました。あとは学生から質問が多く来るので、フィードバックすることはもちろんですが、良い質問は他の学生にも共有しています。その結果、同じ疑問を持っていたという学生の声も多くありました。
――最後に歯科医師を目指している方々に向けてメッセージをお願いします。
玉置:私の出身高校の校是に『天下第一関』という言葉があります。これは「高校での勉強は世の中に出る第一の難関、これを克服せよ」という意味で、私はそのアレンジで「大学での勉強は『天下第二関』である、入学してからの生活はとても大事だ」と考えています。歯科医師になるまでの道のりにはいくつかの関門がありますが、福岡歯科大学では充実した実習内容や学習環境、設備がそろっていますし、教員と学生の距離が近く相談などもしやすいので、厳しい中にも楽しい学生生活を過ごせると思います。ですから「ぜひ我々と一緒に学びましょう」というのが私からのメッセージです。
本日は、お忙しいところありがとうございました。
玉置教授からのビデオメッセージ