金光 芳郎 教授 インタビュー
☆人間の存在が大好きだという心療内科医。余暇は「ザ・スミス」や「トレントレズナー」などの音楽を聴いたり、演奏のまねごとをしたりしていますという金光教授にインタビューをお願いしました。
――医師という職業を選ばれた当初から心身医学の分野に進もうと思われていたのですか?
金光:私が勉強した九州大学には心療内科がありますが、最初から心療内科の分野に進むつもりで入学したわけではありませんでした。高校時代から心理学に興味があってそういった気持ちからでしょうか、やはり結果的に心理学的な分野に惹かれて、心身医学の分野に漂着したといった感じです。
心身医学は奥深い!
――実際に心身医学の分野に進まれて如何でしたか?
金光:心身医学は日本では1959年に学会が設立された比較的新しい学問分野で、未開の部分がまだ多く、パイオニア的なことが出来るのではと思っています。また他の分野と違って治療技法に自由さがあります。例えば、医師によって治療にヨガを用いたり、漢方を使ったり、心理治療にしても枠にとらわれずに技法を開発することが出来ます。私は精神的なものに興味がありましたし、自分の得意な分野でもあったので、大変良かったと思っています。
――率直な質問ですが、心療内科と精神科との違いは何ですか?
金光:心療内科は内科から始まった診療科ですから、心と身体のバランスを診ます。これに対して、精神科は主に心を対象にするというのが大きな違いでしょうか。
――研究のご専門は?
金光:一般に、心理的ストレスがかかれば免疫力は低下すると言われていますが、特に脳内への影響とそのメカニズムについて解明することを長年取り組んできました。その結果、もともと末梢で働いて全身の免疫をコントロールする物質が、脳の中でも働いているということを証明しました。これは、「脳は全身のミニチュア」という考えを実証するパイオニア的な成果となりました。最近では、心因性発熱のメカニズムや、慢性疲労症候群の診断法に関する研究を行っています。また、舌痛症などの口腔心身症は圧倒的に女性に多く発症する病気ですが、そのメカニズムについても注目しており、歯科医師とチームを作って研究に取り組んでいきたいと考えています。
インタビュー中の教授
――それでは、診療のご専門は?
金光:神経筋肉系の心身症である心因性ジストニア(※1)、慢性頭痛、心因性発熱、自律神経失調症などの治療に際して、面接とともにバイオフィードバック(※2)や自律訓練法(※3)の応用を行っています。
(※1)自分の意に反して、筋肉の緊張の異常により現れる異常運動や姿勢の異常が生じる病気。例えば、嫌な事があると首が横を向いて戻らなくなる。
(※2)患者さんが気づかない身体の変化を測定して、その情報を患者さんに伝え、心身をより良い状態に調整すること。
(※3)一種の自己催眠、リラックストレーニングの1つ。
――増加傾向にある症状は?
金光:軽症うつの患者さんが増えています。単なるうつではなく、めまい、耳鳴り、胃痛などの身体の症状がうつの症状の1つとして出てくるタイプの方もたくさん来られます。このような方は、最初は内科を受診され、そこから紹介されてきます。私は内科の診療もしますが、10人のうち1~2人は心身症かなと思われる方がいらっしゃいます。
また、これまで心身症の患者さんは、非常に真面目で、頑張りすぎてダウンされるタイプが多かったのですが、最近では要求の強すぎるタイプで、周りとの不適応がストレスとなって発症される方が増えています。
――どのような治療をされるのですか?
金光:心身症の治療は、まず身体の診察と同時に患者さんの話をよく聞き、心理的な要因がないか探していきます。人間関係や仕事などのストレスが原因であれば、その解決法を一緒に考えます。症状によって薬を処方したり、ストレスを軽減する方法を提案したり、リラックス法の練習をしたりしながら、安心できる雰囲気の中で話を聞いていきます。
うつの治療は、治る病気であることをまず説明し、抗うつ剤を用いながら原因を解決していきます。治る方向を示してあげれば、はじめは薬の力を借りますが自然と安定していき元の状態に戻ることが多いのです。
口腔心身症のひとつである舌痛症は、初めてであれば抗うつ剤が何らかの効果を持つ場合が多く、適量を使用して患者さんが症状と上手につき合っていければ、早期に治癒することもあります。
診察室の絵画
――治療を行ううえで配慮されていることはありますか?
金光:病院で検査しても異常がなく、原因が分からずに不安になられたり、不本意な扱いをされたりして来られる方も多いので、患者さんの気持ちを大切にすることが第一だと思っています。背景には人間関係を含めた複雑な問題も多いので、ゆっくりと丹念にお話しを聞いていくことが大切です。信頼関係が出来ればその後の方向付けもスムーズに出来ますし、何よりも患者さんに治ると思っていただくことが大切なのです。
学生さんの心強い味方!
――学生さんとの関わりについて教えてください。
金光:「コミュニケーション学」、「医療心理学」、「精神医学」、「心身医学」を教えています。歯科と一番関わりがあるのは「心身医学」です。歯科治療のあらゆる場面で心と身体の関連が重要になります。痛みをどう扱うかは、基本的に心身症の知識が有るのと無いのでは大きな違いがあります。患者さんは治療に不安や恐怖をもっていますので、心理面への配慮ができるかどうかで良い歯科医師かそうでないかが別れると思います。その他、本学には助言教員制度があり、各教員が学生さんの悩みなどの相談に乗っていますが、私は学生相談室で心理面の専門家として、話を聞いたり、可能な範囲でアドバイスをしたり、内容によっては教員との調整を行ったりして、学生さんが元気に明るく勉学に励めるような環境づくりに努めています。また、純粋な心の悩みなどで相談に来られることもあり、スクールカウンセラー的な存在として色々な相談に気軽に来てもらいたいと思っています。
――今後の本学での目標は?
金光:口腔心身症は増加していますが、診断法や治療法が確立していない部分があります。特に心療内科医がそれを専門に行う機会は少ないので、臨床や研究で何らかの進歩に貢献できればと思っています。そのためには前にもお話ししましたが、歯科との連携を一層深め、口腔心身症の治療モデルケースを示して参考にして頂くなど、歯科と協力してより良い関係を築いていきたいと思っています。その他、心身医学に関する基礎的な研究も続けていきたいと考えており、学生教育の向上や地域医療に貢献出来るよう発展的にいろんなことに取り組みたいと思っています。
――最後に、大学受験や国家試験などで緊張する場面の多い学生さんにアドバイスをお願いします。
金光:一般的に言われていることでしょうが、自信が持てるまで頑張って、本番は模試のような気持ちで、少し力を抜いたような感じで臨めば緊張せずに上手くいくかもしれません。自分を信じることと自分に過剰に期待しないことだと思います。
大切なことは
自分を信じることです。
――本日はお忙しい中、ありがとうございました。
金光教授からのビデオメッセージ