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学部・大学院

内藤 徹 准教授(現:教授) インタビュー

「高齢者歯科学はこれからの学問-失敗を恐れず明確なゴールを探してゆきたい」
2011.05.13
総合歯科学講座 高齢者歯科学分野
内藤 徹 准教授(現:教授)

――先生、聞いたところでは、料理が趣味でお上手だとか・・・

内藤:料理は趣味ではありません。生きるためにしているだけです。(笑)
家内が10年前から単身赴任でいないため、いま14歳になる娘が3歳のときでしたが、だから晩御飯を作るのは自分しかいなかったからですね。作らなくて済むのだったら作りませんよ。ですから趣味ではないでしょう。でも上手なんですよ、自分で言うのもなんですが。(笑)

――でもお料理するのはお好きなのでしょう?

内藤:例えばですね、スーパーに行って食材を見て、創作意欲をかきたてられたら「今日はこれだ!」と買ってきて、家に戻ってきて食材を台所に並べるわけです。その時に、最初にお湯を4リットル火にかけて、4リットルのお湯は沸くまで15分くらいかかりますね、ジャガイモは柔らかくなるのに時間がかかるから、最初に電子レンジにかけておいてこれが8分間とか、そうするとどういう手順でやれば全部温かいうちにサーブできて、料理を出すときには洗い物が済むように・・・そういう段取りを考えるのが好きですね。研究に通じるところがあります。


研究室の仕事机には
お嬢さんの幼少時の写真

――すごい!!私たちを弟子入りさせてください。
ところで、先生、そろそろ本題に。高齢者歯科について教えて頂きたいのですが、学生さんにどういったことをメインに教えているのですか?

内藤:若い人というのは、年をとるというのがどういうものか、病気というのがどんなものか、なかなかわからないんですよ。想像できないんですね。ところが、私が教える対象の学生というのは20代、よくいっても30代の方です。本当の健康の大切さとか、病気の大変さとか理解できないんですよ。だから、高齢者歯科の中の老年学としてですが、50年後の自分が一体どんな風になっているのか、身体機能が低下するか、精神機能が変化するか、これを知るのが高齢者の医療の第一歩です。
それから今、日本は高齢社会がとても進んでいますよね。今年1年生として入学した学生さんが卒業する時というのは、人口の30%近くが65歳以上の高齢者なんですよ。そうすると自分たちが治療する対象もかなりの割合で高齢者になってしまう。病気になる人の多くは高齢の人ですよね。歯科もそうなんですよ。虫歯になりやすいのは子供とご老人なんですよね。自分で歯を磨くことが難しくなったり、唾液の分泌が悪くなってきて虫歯になりやすくなるとか。そういう高齢の方は、歯周病が進んできたり、糖尿病や高血圧などの持病を持っていたりします。大学を卒業して自分たちが治療する相手も高齢者ですから、高齢者の心理や身体機能がわからないと治療を進めることができませんね。

――ところで本学では、高齢者の介護施設が同じ学園内にありますが、そういうところは少ないんですか。

内藤:国公立の歯学部では全く聞いたことありませんね。私立ならあるかもしれませんが、少なくとも私は聞いたことがありません。これは医育機関として、老健施設とか特養施設を持つということは、教育の上でも、医療資源の有効利用としてもとてもいいことですね。本当に先見の明があるいい方針だったと思います。
学生さんには1年生から介護の体験をしてもらうんですが、今の学生さんって本当に、今は核家族化してしまっているので、高齢者の方に接した経験がないんですよ。初めてこれらの施設で80歳や90歳の高齢者と会って、高齢者の身体活動がこんなものか、コミュニケーションはこんなものかと、みんな新鮮な驚きを感じると思います。3年生でも老健施設に宿泊する実習があって、さらに5年生でも介護実習をしてもらうのですが、実際に食事の介助、生活の介護、口腔ケアを学生さんにしてもらっていますが、とても熱心にしてもらっています。いい勉強になっていると思いますよ。見守りながら教えるのは大変ですけれどね。


インタビュー中

――コミュニケーションをとるのも難しいですよね。

内藤:男子と女子が話すのさえ難しいですよね。生活環境が違うだけで、使っている用語とか違いますよね。こういったギャップだけでも難しいのに、今度は年齢差が、学生さんの場合は20代の方が70歳年上の方としゃべるんですよ。スピードが全然違うし、語彙も違うし、発音も明瞭にできないんですよ。話しかけてから、返答が返ってくるまでに5秒ぐらいかかることもしばしばです。でも、自分もいずれこうなります。その前に自分がこういった方を治療しようとする立場になるわけです。実際に触れあい、お手伝いしてみて、こういったところから馴染んでもらってですね、多感な時に見てもらうのはいいことですね。私も日々発見です。


研究室の壁を飾る猫の絵ニューヨークの露店で購入されたとか

――先生から学生さんへメッセージを伝えるとすれば・・・

内藤:そうですね、自分もここに到るまでには、いろいろやってきて、いまなお失敗もしているんですけれども。たとえば、発明王エジソンが電球を発明するまでに1万回失敗しているんですよ。電球のフィラメントの素材を見つけるまでに、最後は京都の竹から作った炭素にたどりつくまでに1万回くらい失敗しているんですよ。よくそんなに粘り強くできるねって聞いた方に対するエジソンの答えは、「1万回失敗したんじゃなくて、うまくいかない方法を1万通り発見したんだ」と言ったんですよ。

――発想の転換ですね。

内藤:そうです。失敗したことはちっとも恥ずかしいことじゃないんですよ。それだけうまくいかないことにめげずに先に進むことができたこととかですね、それだけ粘り強く、1万通りも組み合わせを考え、やりとげることができたことに、それだけ明確なゴールを持っていたことに感心すべきです。これがより明確なゴールを見つけるための考え方ではないかなあと思うんですよ。失敗を恐れないこと、あきらめないこと、いろいろな方法を模索するってことが大切なのではないかなと思います。


診療室にて
患者さんに説明中

――なんだか開拓者の精神ですよね

内藤:ええ。高齢者歯科は始まったばかりの学問なんです。全国29大学の中で「高齢者歯科」っていう講座を持っているところは半分もありません。これを専門に教えているところも研究しているところも半分もない状態です。「高齢」という言葉にそぐわず開拓の余地のある若い学問で、わかっていないところも多いし、カバーしなきゃいけない領域も広い学問なんですよ。その中でゴールを明確にしていってですね、そこに向かっていろいろなものを探していくことはとても夢のあることだと思います。私もまだこの先の明確なゴールを探しています。そこにたどりつくまでの道筋も、もっと探しています。興味は全然尽きませんよ。

――本日は、いろいろありがとうございました。

内藤准教授(現:教授)からのビデオメッセージ

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