松﨑 英津子 教授 インタビュー
~いつまでも自分の歯で噛めるように~」
■ 幼少のころ
〈卒業文集にも「歯科医師になりたい」って書くくらい固い意志でした〉
――今日はよろしくお願いします。まず先生の出身などについて教えていだけますか?
松﨑:出身は熊本県です。有名なものといえば、やはり熊本城ですね。学校が熊本城にほど近く、スケッチ大会や遠足などでよく行っていました。だから熊本地震で倒壊した時には本当に驚きました。今はこのご時世なので帰省していませんが、先日テレビで雲海に浮かぶ熊本城の幻想的な景色が紹介されていたのを見て地元が恋しくなりましたね。
――熊本で過ごした中高生時代、どういう生徒さんだったのでしょうか。
松﨑:中学時代の話になりますが、コーラス部に所属していて、副部長を務めていました。全国合唱コンクールに出場したこともあり、東京のNHKホールに収録で訪れたこともいい思い出です。他にもピアノを習ったりオーケストラに所属して楽器を弾いたり…音楽に青春を捧げていたような気がします。
――音楽に青春を捧げていた先生が歯科医師を志すきっかけは何だったのでしょうか?
松﨑:実は小さい頃から歯科医師になりたかったんですよ(笑)。子どもの頃、歯に激痛が走るという経験があって、その時の先生が夜遅い時間にもかかわらず対応してくださったおかげで痛みがとれたことや、歯科治療に使う様々な器具に興味を持ったことがきっかけですね。それからは卒業文集にも「歯科医師になりたい」って書くくらい固い意志を持っていました。
――子どもの頃の夢を叶えるために大学では歯学部に入学されたわけですが、どういう学生さんでしたか?
松﨑:勉強は人並みでしたが、臨床に興味があったので、先生に志願して外科処置の補助をさせていただいていました。なので、臨床経験は他の学生より多かったかもしれません。大学時代はゴルフ部に所属していました。青空の下、時折海も見えるゴルフ場でのラウンドは心地よかったです。上手というわけではありませんでしたが部長をしており、調子のいい時は100前後のスコアでラウンドしていました。
――今でもゴルフを続けているのですか?
松﨑:さすがに最近はプレーする時間がなくて…今は旅行が趣味ですね。以前学会で訪れた秋田にある田沢湖の深い青色が印象に強く残っています。その場所でしか見られない景色を見るというのも旅行の醍醐味だと思いますので、写真に撮って後から眺めたりしています。
▲田沢湖を訪れた際の一枚
――先生は歯科保存学を専攻されていますが、専攻として選んだ理由を教えてください。
松﨑:歯科保存治療というのは歯を抜くことなく、いつまでも自分の歯で噛めるようにするという治療法なのですが、その治療がうまくいっていないと、後々補綴(歯が欠けたり、無くなったりした場合に冠や入れ歯などの人工物で補うこと)や矯正の治療がうまくいかなくなってしまいます。歯科治療の基礎、いわゆる王道的分野だと感じたので極めてみたいと思うようになりました。
▲インタビュー中、歯科保存学についての説明を行う松﨑先生
――歯科保存学を極めるために大学院に進学したのですか?
松﨑:いや、そうでもなくて、実は当時、「4年間って長いな…」って考えてしまい、進学を迷っていたんです。ただ、今にして思うと歯科医師として40年50年と人生を送っていくなかで、大学院生という期間はたった4年間という短い期間なんです。その短い期間の中で自分の研究テーマを掘り下げていくことにより、自分自身の視野が広がって、修了後の歯科医師人生にも大きく役立っています。あのときの私と同じように迷っている人もいると思いますが、ぜひ大学院への進学をおすすめしたいですね。
■歯科保存治療
〈歯内治療は歯の喪失回避のための究極の予防医療〉
――次に診療に関して教えてください。先生は歯科保存治療のどんなところに魅力を感じていますか?
松﨑:近年、治療に使う歯科材料はどんどん進歩していて、歯を削る事を最小限に抑えながらも、その治療効果は長期間持続するような治療ができるようになっています。そういった進化し続けている材料を最前線で使用しながら、歯が機能するのを診ることができる点ですね。 また、歯の神経や歯ぐきの病気で来られた患者さんが完治した際に「先生のおかげで治りました!」とよく言われるのですが、実は私たち歯科医師は、様々な器具を使って病気の原因を取り除く作業をしているだけなんです。あとはそれに対して患者さんの体が反応して、修復の方向に向かっていくんです。そういった回復の過程をレントゲンなど使って時間を追って診ることができるのも魅力的だなと思います。
▲模型を使った歯科保存治療の説明
――医科歯科総合病院では現在マイクロスコープ(歯科用実体顕微鏡)が導入されていますが、この機器はどういった治療の時に使われるのでしょうか。
松﨑:現在当院では歯の根の治療(歯内治療)やつめものの治療(修復治療)を行う際に多く使っています。肉眼では確認できない微細なものが20倍くらいに拡大して見えるので、歯の根の中の様子や歯にひびが入っていないか、など細かく見ることが可能となっています。このマイクロスコープを導入している歯科医院はまだ少なく、近隣の歯科医院から患者さんの紹介をいただいて診療しているケースもあります。
▲マイクロスコープを使用した診療シミュレーション
――マイクロスコープを使っての診療は通常の診療と異なりますか?
松﨑:そうですね。マイクロスコープを使った診療は患者さんの口を見ながらではなくマイクロスコープのレンズやモニターを見ながらの治療となりますので、初めの頃は距離感や方向に慣れず苦労しました。実は、アシスタントも視野を妨げないように介助しないといけないのでトレーニングが必要なんですよ。ただ、精密な治療には欠かせない重要な診療機器ですね。
――歯科保存治療の特徴をまとめるとどういったものになりますか?
松﨑:ひと言で言うと「いつまでも自分の歯で噛めるよう治療を行う」です。歯科保存治療のなかでも、歯内治療は「歯を抜くか抜かないか」という判断のための最後の砦となる治療です。阿南先生(阿南 壽歯科保存学分野前教授)が「歯の喪失回避のための究極の予防医療」とお話くださったのですが、その通りだと思います。我々は患者さんの歯を抜かずに治療をすることを第一に考えているため、私たちが「歯を抜くことが適切」と判断した状態はかなり深刻な状態になっています。一度抜いた歯は戻ってこないので、患者さんの歯の状態はCTやマイクロスコープなど様々な機器を用いて精密な検査を行ったうえで診断します。また、治療後も定期的なチェックをこころがけております。
■教育
〈歯科診療の技術だけではなく、コミュニケーション能力の向上を図った指導も行っています〉
――次に教育について教えてください。学生さんに指導する際気を付けていることはありますか?
松﨑:学生さんに単に「この単語を覚えておいてください」と指導してもそれはすぐ忘れてしまうと思うので、新しい事を教える際には写真を使って説明したり、実際の治療法を説明したりしながら紐づけできるような指導をしています。専門用語自体が難しいので、文字だけの説明になっても学生さんは覚えられないでしょうしね。
――講義資料を作る際もそういったことに気を付けているわけですね!
松﨑:やはり文字が多いと、学生さんも勉強するのに目で追うばかりになって疲れてしまうでしょうからね・・・。講義中も写真などを使って説明していると、学生さんも自然と前を向いて耳を傾けてくれるので、重要な語句を覚えてもらう際には写真も掲載する等、そういった点にも気を配ってレジュメを作成しています。
――教える学年によって指導を変えていることもあるのですか?
松﨑:そうですね。低学年(第1~3学年)も高学年(第4~6学年)も講義を担当しているのですが、第6学年は臨床実習を経験し、歯科医学に関する知識は概ね習得できているので、症例の写真を見せて「この治療は次に何を行うのがよいか」、「次にどの器具を使用するか」といった自ら考えさせるような指導を行っています。低学年の学生に対しては一つ一つの専門的な用語に対して丁寧に教えていますが、あまり知識が得られていない段階で細かく教えすぎてもかえって混乱させてしまうので、できる限りシンプルな指導をこころがけています。
――臨床実習ではどのようなことに気をつけていますか?
松﨑:臨床実習は学生にとって初めて患者さんと接する場になるので、接遇面の指導も行うようにしています。将来患者さんと多く接していきますし、歯科医師であると同時に、一人の人間であるわけですから、歯科診療の技術だけではなく、「患者さんに挨拶を必ず行う」という基本的なことから、「歯の診療以外のこと、雑談を1回は会話の中に取り入れること」といったコミュニケーション能力の向上を図った指導も行っています。
――患者さんと接する機会が初めての学生さんにとってはなかなか難しいものがあるのでしょうね…。
松﨑:そうですね。学生さんはどうしても診療の方に意識を集中してしまいますから。ただ、患者さんは歯科治療に来られているということは、歯の病気に対して何かしら不安な気持ちを持っているということなんですよね。そういった不安な気持ちを雑談などで和らげるというのも、歯科医師の大切な役割だと思いますので、学生のうちからしっかりトレーニングしてもらっています。
――歯科医師という職種について女性が働くという点では選択肢としてどう思いますか?
松﨑:歯科医師は女性にとって魅力的な職業だと思います。一般的に「歯科医師の免許を取得する、イコール開業する」とイメージする人が多いようですが、決してそうではないんですよね。女性の場合だと出産を経験する方もいるため、「開業して歯科医師を続けるのは難しいのでは・・・?」と不安になる気持ちもあるかと思いますが、一生懸命勉強して得られた資格が無駄になることはありません。働き方も人によって様々で、開業しなくても大学や歯科医院のスタッフの一員として毎日働いている人もいれば、フリーランスで自分の都合がつく曜日や時間帯を使って、いくつかの歯科医院で働く歯科医師もいます。「フリーランスの歯科医師」って何かのドラマみたいですが(笑)。
歯科医師の世界はそういった働き方もあるということがあまり浸透していないようなので、今後女性にとって働きやすい職業であるということが広く認知されてほしいと考えています。
■松﨑先生からメッセージ
〈歯科医師は魅力的な職業です〉
――それでは最後に、歯科医師という選択肢に興味を持っている方へ何かメッセージがありましたらお願いします!
松﨑:繰り返しになりますが、性別に関係なく歯科医師は魅力的な職業だと思います。だからまず多くの人に「歯科医師になりたい!」と思ってほしいですね。
そうして、歯科医師になりたいという夢をもって勉強に励んでほしいですし、「歯科医師になった後、自分はどうなりたいか」ということをイメージしてほしいと思います。きっと他の職種でもそうだと思うんですけど、どういう歯科医師になりたいかとイメージすることで勉強もより捗ると思いますし、そうすることで自分には何が足りないかという課題も見えてくると思います。
――本日はありがとうございました!
松﨑 教授からのビデオメッセージ