金子 高士 教授 インタビュー
――まず初めに先生の学生時代からお聞きしてよろしいですか?
金子:出身は長崎県の島原市で、高校は島原高校でした。家から歩いて5分くらいの場所にあったんですよ。その後、鹿児島大学に進学して、卓球部のほかに歯科医療研究会に所属していました。
――歯科医療研究会、ですか?
金子:いろいろな歯科医療について勉強をしたり、自閉症児との関わりや幼稚園でのフィールドワーク、離島での診療・検診にボランティアで参加したりというようなことをするグループです。年1回開催される全国歯系学生ゼミナールで発表することを目標に活動していました。
――先生が歯科医師を目指したきっかけを教えてください。
金子:祖父が歯科医師で、だから幼稚園の頃から「大人になったら歯医者になる」なんて言ってましたね。でもきっかけとして大きいのは、小学校6年生の時に、祖父の家に居候していた時期ではないでしょうか。色々な歯科材料に触れることができて、印象材で石膏模型(せっこうもけい)をつくったり、金属冠作製に使用する低融点合金を熱で溶かした後に室温で固めたりして遊んだりもしました。そんなときに夜間に来る緊急の患者さんを診療している祖父の姿を目にして、とても印象に残りました。たぶんそれが歯科医師を目指した一番のきっかけですね。
――大学卒業後は歯科医師になる夢をかなえて、長崎大学の歯周病学分野の医局へ入局されていますね。
金子:はい、大学最後の夏休みにいろんな大学の医局を見学して入局先を決めました。歯周病学では歯周治療の他に、修復やエンド、補綴(ほてつ)、外科、小矯正とかいろんなことが学べるんですよ。治療では、患者さんの口の中の状態から治療計画を立てて、最初から最後まで診れることが魅力です。
――その後、本学の口腔医療センターで勤務されていますが、センターの紹介をお願いします。
金子:口腔医療センターは2011年12月に博多駅前に開設されました。特診室、デンタルチェア手術室、CT、マイクロスコープ、レーザー、口臭診断のためのガスクロマトグラフなど最新設備を備えています。また30名程度が収容可能なセミナー室もあります。交通の便が良いので県外からもたくさんの患者さんが来院されます。保存、補綴、口腔外科、インプラント等の各領域の専門医がひとつのフロアで協力しあって高度な歯科医療を提供しています。歯周病治療について言えば、昨年度は約100症例の歯周外科処置を行い、実績も十分にあると思います。
診療中の金子教授
――やはり来院される患者数は多いのですか?
金子:平日は平均して1日あたり110人くらいですね。会社の昼休みや夕方以降はビジネスマンの方も多く来院されています。予約数では18時台がやはり一番多くて1ヶ月先も予約で埋まることがあります。その次は12時、10時の順で多いですね。
――口腔医療センターは2016年12月で5周年を迎えましたね。
金子:皆様のおかげで5周年を無事に迎えられることができました。今後は、研修医教育、卒後教育にももっと力を入れたいと考えています。2016年には歯周病学会の専門医の教育施設にもなりました。その他にも色々な専門医を取れるような、魅力ある施設を目指したいと思います。それができるような環境が口腔医療センターにはあると思っています。患者さんは大学病院として期待して来院される面もありますので、様々なニーズにこたえなければいけません。我々も研鑽し続けなければと思っています。
口腔医療センターの診療室
――次は研究についてもお聞きしたいのですが、アメリカへ研究留学されていたのですね。
金子:はい、研究を思いっきりやりたくて、2年半ほどマサチューセッツ大学の医学部に留学していました。向こうでは人のつながりが全くなく、ゼロからその人の評価が始まる厳しい環境でしたね。最初は英語もすごく苦手でしたが、1年経つと研究の成果が出て、周囲からも一目置かれるようになっていました。毎週のカンファレンスなど苦労もしましたが、研究三昧の環境でとても充実していました。
留学時の写真。
背景の建物は留学先のマセチューセッツ大学医学部
――留学先ではどのような研究をされていたのでしょうか?
金子:ショウジョウバエを用いた研究でした。ショウジョウバエで真菌に対する防御応答で重要な役割をもつTollという遺伝子が発見されたのですが、実はヒトもToll様受容体(Toll-like receptor: TLR)という同等の機能を持つ遺伝子の存在が明らかになっています。ヒトTLRは細菌やウイルスの検知に関与しているのですが、ショウジョウバエとヒトは似たような生体防御機構を持っていると言えるんです。ショウジョウバエは全ゲノム配列も判明しており、遺伝子操作のツールも開発されていましたので、遺伝子の機能を探る上では最適なモデル動物だったんですよ。
――先生のご専門である歯周病学とはどのように関連しますか。
金子:歯周病は、グラム陰性菌という口腔内細菌による感染症の一種です。当時、ショウジョウバエにおけるグラム陰性菌を認識するシステムが解明されていませんでした。留学先ではショウジョウバエの細菌検知システムに関するプロジェクトに参加させていただきましたが、帰国後はヒトの細胞やマウスなどの実験動物を使用した研究を行っています。歯周病菌に対する生体防御機構を解明することにより炎症をコントロールできないかと考えています。
――新しい薬の開発につながるということですか。
金子:まだ基礎研究の段階ですが、歯周病菌による炎症を抑制する化合物もいくつか合成されてます。なかには実験動物で有効性が確認されているものもあります。私が行っている研究では、グリブリドという糖尿病の既存薬を用いたものがあります。炎症性サイトカインの一種・インターロイキン(IL)-1βの活性化に関与しているカスパーゼ1という酵素があるのですが、この酵素の活性化をグリブリドが抑制すると報告されたのをヒントに、この薬で歯周病菌による炎症を抑制できるのではと考えました。ラットへの投与で効果が確認できて、学会でも報告しました。まだ実験動物レベルですが、将来的には期待できる結果かと思います。
※炎症性サイトカイン
サイトカインとは細胞から分泌されるタンパク質の一種で、ほかの細胞に情報を伝える役割を持つ生理活性物質である。炎症性サイトカインは炎症反応を促進する働きを持つ。
――最後に、口腔医学について、先生のお考えをお願いします。
金子:歯周病は、脳梗塞、心筋梗塞、脳血管病変、糖尿病、早産、低体重出生児、メタボリックシンドロームなどの色々な疾患と関与していることが知られています。現代は国民の多くが歯周病にかかると言われており、歯周病の治療・予防を通じて、国民の全身の健康に寄与できれば、と思っています。そのために、日々の診療に取り組みながら、いま行っている歯周病研究を少しでも前へ進めていきたいです。
――先生の診療、研究に対する熱意がとても伝わってきました。
本日はお忙しいなか、貴重なお話をありがとうございました。
金子教授からのビデオメッセージ