岡村 和彦 准教授 インタビュー
――先生のご出身はどちらですか?
岡村:両親は転勤族なので転々としましたが、生まれは佐賀県の有田町です。学童から思春期にかけては筑後地方(久留米市や大川市等)で過ごしました。ただ、大学以降はずっと福岡市なので、一番長いのは福岡になりますね。人情豊かな町で、学生の頃には「出世払いでいいよ」と言われることもあり、都会のわりには温かみのある町だと思いました。
――先生が歯学部に進学しようと思われたきっかけは何ですか?
岡村:高校の頃は広範囲に興味があり、文系でも良かったのですが、父から手に職をつけるよう言われ、歯学部に進学しました。医学部だと血を見るのが嫌なので歯学部に入りましたが、解剖学実習が人体の全身に及んだのはイヤでしたね(笑)
――学生のときに部活動などはされましたか?
岡村:私の通った久留米大学附設高校には、当時は主に武道しか部活がなかったので、勉強に没頭する日々でした。九州大学に入学してからも、部活には所属せず、先輩や同級生と軟式野球やソフトボールをはじめいろいろな球技を楽しんでいました。
――何か趣味で楽しんでいることはありますか?
岡村:野球は小さいころから好きで、甲子園や巨人戦をテレビで見ていました。将来は甲子園に出たいなと考えた少年時代でしたね。小学校のころは一日200球くらい投げこんでいたので、自然に肩は鍛えられました。かなりストイックな少年時代でした。今では大学の野球部の顧問も担当しています。福岡歯科大学の硬式野球部のOB戦では、始球式をするだけのはずでしたが、その後も続投を要望され、完投してしまいました(笑)。他にも演劇論や若者に流行りの音楽を鑑賞したり、グルメ(特にカレー)を楽しんだりといろいろです。中でも小学生の時から嗜んでいた将棋はアマチュアながら5段を持っています。当時は学校に将棋を持ち込んで昼休みにやっていましたね。
――先生が病理学の道を選ばれたきっかけを教えてください。
岡村:もともとは歯医者になるんだと思って歯学部に来ていますから、大学を卒業する時点では、補綴科に一番興味があったのですが、病理学の恩師から大学院進学を勧められ、そこで歯科臨床とは全然違う病理学の面白さに触れたのがきっかけでした。
――病理診断科とはどのようなことをする部門ですか?
岡村:かなり幅広い医療系フィールドの土台を支える基礎学問の中の一つが病理学で、臨床を支える土台であり、病理診断ということで患者さんの細胞・組織から病名をつける部門です。臨床の現場で診断名をつけるのが難しい場合などは、私たちが顕微鏡をのぞいて細胞・組織から悪性、良性の判断をしています。臨床診断、画像診断などの一連の診断の最後にくる病理診断は非常に責任の重い業務でサッカーに例えるとゴールキーパーみたいな存在だと思っています。最終診断を下す上での最後の砦ですね。病理診断は、数名の合議制で行ってます。
~病理診断業務中の岡村先生~
――本学に来られてカナダに留学をされたようですが、お話を聞かせていただいてよろしいですか?
岡村:福岡歯科大学で当時の上司であった北村勝也教授から留学を勧められ、背中を押してもらえたことがきっかけです。九州大学の後輩がちょうどブリティッシュコロンビア大学(カナダ)に留学中で、その紹介で留学先を同大学に決めました。カナダへは1年間の留学で家族とともに行きましたが、最後は家族が日本に帰りたくないと言うほどバンクーバーは住みやすい街でした。大学以外での思い出としては、ホームパーティーをしたり、夏休みにはカナディアンロッキーに行ったり、とても楽しく過ごしました。
――先生の携わられている研究についてお話を聞かせてください。
岡村:行く先々でいろいろな研究に携わってきましたが、広いテーマ設定としては生命現象の変化や変動に興味を持っています。最近では唾液腺の研究や重層扁平上皮の研究を少人数の先生、大学院生とともにチームで取り組んでいます。たとえば将来の再生医療を見据えた研究として、患者さんから採取した重層扁平上皮細胞を種にシート状に増やす技術の応用を目指しています。これは現実的な再生医療技術として、遠い夢ではなく近くの夢を狙っている研究ですね。他方、唾液腺の研究の延長線では、何十年先に実用化されるのかわかりませんが、生命現象の根底を探索する基礎研究らしいことを同時進行で行っています。遠くのゴール(基礎的研究)と近くの現実的なゴール(臨床的研究)を見据えて行っています。
――病理学・口腔病理学の講義・実習で教育上気を付けておられる点はどんなところですか?
岡村:200~300年前からの病理学、口腔病理学の流れで、この学問の基本の80%程度は、毎年同じことを教えています。ただ、教育する相手が変わるので、伝える内容は同じでも相手に伝わらなかったら、教育者の自己満足で終わってしまいます。したがって、学生のニーズや意見を聞き出しながら次に活かすという点に気を付け、相手(学生)の立場に立って教育をしているつもりです。
~インタビュー中も優しい眼差しの岡村先生~
――学生さんからの信望が厚いという評判を耳にしてますが、学生さんと接する上で何かポイントなどあるのでしょうか?
岡村:学生さんの率直な声を聴くことができるように、こちらから積極的に声を掛けて励ましたり、アドバイスをしたりして、コミュニケーションを大事にするようにしています。この時、指導者目線ももちろん大事ですが、同時に相手(学生)の立場に立つ視点も忘れないことに気を付けています。
――部活では野球部の顧問をされていますが、学生さんとのエピソードをお聞かせください。
岡村:野球部でのエピソードはありすぎて話しきれませんが、オールデンタル(全日本歯科学生総合体育大会)での野球部の試合は必ず応援に行っています。2009年春、試合中に部員が骨折して広島で入院した時は、部員たちと一緒にお見舞いに行ったのですが、せっかくの機会なので新広島市民球場へ見学に連れて行ったり、学問(科学)に対する意識を高めさせようと広島大学の薬理学の先生との対話の機会を設けるなどしました。様々な角度から学生の興味や意識を抽き出し、意欲を高められるような状況を思い描きながら接しています。また、医学部への編入学を考えているという相談をしてきた部員もいました。いろいろな情報、アドバイスを与えたのですが、結局その学生さんは医学部へ編入学し、その後も自己研鑚を続けて医者になりました。
~顧問を務める野球部の部員とともに~
――これから歯科の道に進もうとしている学生さんへメッセージをお願いします!
岡村:学生生活はライセンス(歯科医師免許)を取得するだけではもったいないです。口腔歯学部にはいろいろな学生が入学してくるので、同級生同士で励まし合いながら、学ぶことに対して興味を持ち、モチベーションを高く持ってほしいと思っています。そのためにもコミュニケーションを大事にしてください。そして日々の学生生活でのさまざまな経験の中で、歯科医師になることに対する生きがいを見つけてほしいと乞い願っています。
――インタビューをするなかで、人とのつながりを大切にされ、気遣いを忘れない先生の人柄が、多くの人脈につながっていることがよくわかりました。お忙しいなか、貴重なお話を有難うございました。
岡村准教授からのビデオメッセージ