2025.05.29 【研究成果】腸の免疫応答が口腔カンジダ症を防ぐ仕組みを解明~腸内環境を整える食習慣などに症状改善の期待~
福岡歯科大学 口腔歯学部 感染生物学分野の田中 芳彦 教授(口腔医学研究センター リーダーを兼任)、永尾 潤一 准教授、加地英美大学院生らの研究グループは、腸の免疫応答が口腔のカンジダ真菌(カビ)による感染症を防ぐ仕組みを解明しました。
この研究は科学研究費助成事業ならびに日本医療研究開発機構(AMED)の免疫アレルギー疾患実用化研究事業の重点領域「臓器連関または異分野融合を取り入れた免疫アレルギー疾患の独創的な病態解明研究」の支援のもとで行われたもので、その研究成果は、2025年5月16日に国際科学誌「iScience(アイサイエンス)」(Cell Press)オンライン版で発表されました。
本研究のポイント
- 真菌(カビ)感染症である口腔カンジダ症を防ぐ免疫細胞としてヘルパーT細胞が注目されていましたが、カンジダ真菌に応答する詳細なメカニズムは不明でした。
- カンジダ真菌が腸で取り込まれており、カンジダ真菌に応答するヘルパーT細胞が腸で活性化した後に口へ移動して口腔カンジダ症の重症化を防いでいることを発見しました。
- 食習慣の改善などで腸内環境を整えることによって、口腔カンジダ症を防ぐことが期待されます。
概 要
カンジダ真菌はヒトの口や腸といった消化管に広く生息しており、通常は病原性を認めませんが、加齢やエイズ、薬で免疫力が低下すると真菌感染症を起こします。人生100年の時代を迎えて、義歯装着者では口腔カンジダ症が社会的な問題になっています。抗真菌剤による治療が施されますが、真菌は細菌よりもヒトに近い病原体のため、細菌感染症の抗菌剤と比べて再発が多く見られ、抗真菌剤にかわる新しい治療法の開発が待たれています。
本研究グループは、カンジダ症を防ぐヘルパーT細胞が腸で活性化していることを突き止め、その後に活性化したヘルパーT細胞が血管やリンパ管を通じて口へ移動して口腔カンジダ症の重症化を防いでいることをマウスの実験で解明しました。カンジダ真菌をマウスの腸に入れると、腸からカンジダ真菌が取り込まれて、カンジダ真菌に応答するヘルパーT細胞(Th17細胞)が腸で活性化することがわかりました。その後、Th17細胞は腸からカンジダ真菌が感染症を起こしている口へ移動して、口腔カンジダ症の重症化を防いでいることが明らかになりました。
腸には病原体を排除する免疫細胞(Th17細胞)を誘導する腸内環境が整っていることに着目しました。本研究グループは口腔カンジダ症のほかに歯周病でも腸から口へ歯周病原細菌に応答するTh17細胞が移動することを2022年に解明しており、さまざまな口腔感染症で「腸ー口腔連関」の免疫応答によって病態が調整されていることがわかってきました。今後の検証により、食習慣の改善などで腸内環境を整えることによって、口腔カンジダ症を防ぐことが期待されます。
腸の免疫応答が口腔カンジダ症を防ぐ仕組み
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