2024.03.05 【研究成果】骨のタンパク質が脂肪細胞のインスリン感受性を亢進させる分子機序を解明
福岡歯科大学機能構造学分野の大谷崇仁講師、稲井哲一朗教授、同大学口腔医学研究センター平田雅人客員教授らの研究グループは、オステオカルシンの作用の1つであるインスリン感受性亢進メカニズムを分子レベルで初めて解明し、オステオカルシンが脂肪細胞の細胞内イベントを調節しているだけでなく、細胞外環境からの情報を受容する経路を調節していることを明らかにしました。
肥満がもたらす脂肪組織の線維化や炎症性細胞浸潤などの周囲環境への影響をオステオカルシンが改善する可能性を有しており、今後、新たな肥満・糖尿病の予防治療薬の開発につながることが期待されます。
本研究成果は、2024年2月28日(水)(日本時間)に科学雑誌「Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Molecular Cell Research」(Elsevier)に掲載されました。
概 要
これまで歯科領域ではその臨床的特性から骨に関する研究が活発に行われてきました。さらに近年では口腔の健康とメタボリックシンドロームとの関連性が注目を集めています。
骨は身体を支持し運動機能を担うとともに、造血やミネラルの貯蔵庫としても重要な器官ですが、全身の糖・脂質代謝を活性化する内分泌機能があることも知られています。この骨の内分泌機能を担うのが骨の中に含まれるタンパク質の1つであるオステオカルシン(OC)です。このOCはGlaタンパクであり、分子内に3か所のカルボキシル化される領域がありますが、ホルモンとしての機能を果たすのは低(無)カルボキシル化のOCで、我々はこれをGluOCと呼んでいます。
これまでの研究において、GluOCがマウス個体の糖・脂質代謝を活性化させることは数多く報告されてきましたが、その分子レベルでのメカニズムに関しては十分に解明されていませんでした。
しかし、今回の研究成果によってGluOCが脂肪細胞のインスリン感受性を亢進させるシグナル伝達経路を初めて明らかにしました。GluOCはその受容体であるGPRC6Aに結合すると、転写因子FoxO1の発現亢進に伴い、細胞-基質間接着タンパクの1つであるインテグリンαVβ3の発現を亢進させます。このインテグリンαVβ3はインテグリンの中でも特に接着性糖タンパクと特異的に結合し、活性化することが知られ、脂肪細胞の細胞外環境の変化を受容することで、インスリンシグナリングにおいて重要な基質であるIRS1(インスリン受容体基質1)のユビキチン化による分解が抑制されることにより、インスリン刺激による糖の取り込み能がGluOC非存在下と比較して亢進することが分かりました。同時に、GluOCはGPRC6Aを介して、GLUT1およびGLUT8などの細胞膜輸送にインスリン刺激を必要としないグルコーストランスポーターの発現を亢進させ、インスリン非依存的に糖の取り込みを調節していることも分かりました。
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福岡歯科大学 生体構造学講座 機能構造学分野
講師 大谷 崇仁
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