機能生物化学講座について
講座概要
平成13年4月1日から、基礎医歯学部門のひとつとして機能生物化学講座(Department of Functional Bioscience)が本格的にスタートしました。本講座は、従来の化学と口腔生化学講座が合併した生化学分野と、旧口腔細菌学講座から名称を変更した感染生物学分野の2分野から構成されています。全員一丸となって学部および大学院教育に携わるとともに、活発な研究活動を展開しています。
主任教授挨拶
機能生物化学講座 感染生物学分野 教授 田中 芳彦
機能生物化学講座は、「生化学分野」と「感染生物学分野」の2つの分野からなります。教育面では、生化学分野は主に生化学や化学に関する講義や実習を、感染生物学分野は主に微生物学や免疫学に関する講義や実習をそれぞれ担当しています。研究面では、生化学分野はDNAやヌクレオチドの損傷を防ぐ仕組みと発がんとの関係などについて、感染生物学分野は病原微生物と免疫応答などについて研究をおこなっています。
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生化学分野
細胞中のDNAやRNA、その材料であるヌクレオチドは細胞内のさまざまな反応により絶えず傷付いています。最も重大な原因の1つが活性酸素であり、活性酸素による酸化的損傷は発がんや老化の進行に大きな役割を果たしていることが知られています。生物は酸化的損傷を元に戻す修復機構や活性酸素自体を制御する機構によって正常な機能を保ちながら生きています。私達の研究室では活性酸素に生物がどのように対処しているのかを、ヒト細胞やマウス細胞、出芽酵母、大腸菌などを用いて、分子レベルで解析を進めています。
教育
1年次の教養科目の化学に関する講義、実習と、2年から3年次の基礎専門科目の生化学に関する講義、実習を主に担当しています。また、その他にも、細胞化学、基礎う蝕学、栄養学などを一部担当しています。1年次の基礎化学の講義では、高校から大学への橋渡しを考慮しながら、化学における基本事項の理解につとめ、かつ、化学的見方、とらえ方を修得することを目的とし、更に後期には有機化学の基礎から発展までを学習します。2年次に担当する生化学では、人体がどのような物質(分子)から成り立っているのか、それらの物質がいかにして合成され分解されるのか、これら物質が生体システムの中でどのような機能を営んでるのかを学び、生命現象を理解するための基礎的知識を習得します。特に、3年次の口腔生化学では、臨床科目における生化学的側面が理解できるように、歯、歯周組織、骨などの口腔領域に関する物質の構造や機能、また、う蝕(虫歯)や歯周病などの歯科疾患の原因や発症機序などを学びます。
研究テーマ
1.酸化ストレスの発生と制御(梅津,林)
ヒトを始めとする多くの生物は酸素を利用して代謝活動を行い、エネルギー生産を行なっていますが、その過程で活性酸素が生じます。活性酸素は種々の生体分子を酸化し、特に遺伝情報をもつDNA やRNA を傷つける結果、疾患や老化の大きな原因となっています。これらを防ぐために生物は様々な機構を備えていることが知られていますが、活性酸素の発生自体についてはどのように制御されているのか、殆ど明らかになっていません。活性酸素の発生やその影響を制御する新たな機構について、出芽酵母を用いて探索を進めています。
2.ゲノムを安定に保つ仕組みと組換えの制御(梅津,林)
染色体欠失、重複、転座などの染色体レベルでの遺伝的変化については、その発生原因やプロセス、制御機構などの分子レベルでの理解はあまり進んでいません。私たちは、二倍体出芽酵母をモデル生物として用いて、染色体異常の検出と詳細な解析を容易に行える実験系を開発しました。これまでに、染色体異常の発生には相同組換えが深く関与すると共に、同じ組換えの機構がゲノムを安定に維持するためにも大きな役割を果たしていることを明らかにしました。組換えに関わることが知られているRDH54タンパク質の作用について解析したところ、RDH54が染色体のセントロメアに結合することで染色体の安定化に寄与していることが分かってきました。組換えとセントロメアの関係については、これまで殆ど報告されておらず、現在、RDH54がセントロメア特異的なヌクレオソームのリモデリングを行なうとの仮説を検証中です。
3.正常な蛋白合成のための酸化リボヌクレオチド排除(浄化)機構
活性酸素によってRNAの前駆体ヌクレオチド中に8-オキソグアニンが生じると異常蛋白合成の原因となる。生体はこの酸化ヌクレオチドを排除する機構を有する。この研究はサイエンスの解説 (Science 278, 78-79 1997)にも採り上げられ注目を集めた。現在様々なタイプのヌクレオチド排除機構の存在を報告しつつある。
4.遺伝子発現におけるRNAレベルの精度維持機構
DNA中の塩基が酸化された場合は除去修復などの機構で修復されるが、RNAが酸化された時はどうなるのか、これまで全くわかっていなかった。私達は酸化RNAと特異的に結合するタンパクを多数報告し、これがRNAレベルの精度維持に働いているとの仮説を現在提唱している。
生化学分野 所属教員
教授 | 梅津 桂子 |
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准教授 | 林 道夫 |
准教授 | 橋口 一成 |
助教 | 谷口 卓 |
感染生物学分野
感染生物学分野では、
1)歯周病原細菌やカンジダなど「病原微生物」そのものを対象とした研究
2)ヒトやマウスなどの「宿主免疫応答」を対象とした研究(右図)
3)「病原微生物」と「宿主免疫応答」の両サイドからの研究
という3つの視点で感染防御の研究を進めています。
1)「病原微生物」そのものを対象とした研究
歯周病、う蝕(虫歯)や口腔カンジダ症といった口腔領域において感染症をおこす「病原微生物」そのものを対象に研究を行っています。例えば、歯周病は難治性の慢性感染症で、Porphyromonas gingivalisという口腔内の常在細菌が原因となって発症することが知られています。この細菌は嫌気性菌なので酸素がある環境では生育できず、嫌気チャンバーという装置で酸素を完全に取り除いた環境をつくって培養して実験をする必要があります。このようにして培養した細菌から様々な菌体構成成分を抽出して解析することで、生体に及ぼす影響を調べています。また、抗菌性を有する医療用新素材の開発にも取り組んでいます。
2)「宿主免疫応答」を対象とした研究
私たちには病原微生物の感染からからだを守るための免疫力が備わっており、ヒトやマウスなどの「宿主免疫応答」を対象とした研究を行っています。私たちのからだでは、腸管パイエル板などで様々な免疫系の細胞が病原微生物の侵入を防ぐために働いています。このような免疫系細胞の分化や細胞の運動がどのようなしくみで調節されているのか、生体内や細胞内における制御機構を調べています。
3)「病原微生物」と「宿主免疫応答」の両サイドからの研究
私たちを絶えず感染の危険にさらす「病原微生物」と、これら微生物の感染からからだを守る「宿主免疫応答」の両者は”敵”と”味方”の関係です。
”敵”である「病原微生物」のことをよく知り、”味方”である「宿主免疫応答」のことをよく知ることで、感染症に対する新しい診断法や治療法の応用へ向けた研究を進めています。特に、腸-口腔の連関の解明(右図)を起点に、臨床研究メンバーと協力して基礎と臨床の両方向から「ヒト歯周病と腸内環境」の関連性を解析しています。
このような研究をもとにして、口腔歯学部の学部学生へ向けて、微生物学として「細菌学総論」「口腔細菌学各論」、免疫学として「基礎免疫学」についての講義・実習を通して、将来の歯科医師として臨床の現場で役に立つ教育に取り組んでいます。また、大学院生へは、国際的視野で口腔医学研究を展開する意欲を持ち、世界を舞台に活躍できる研究者の育成を目指しています。
研究テーマ
・歯周病と腸内環境の関連性(歯周病)
・う蝕の免疫学的予防法の開発(う蝕)
・真菌感染症に関わる免疫制御の研究(口腔カンジダ症)
・細菌感染がもたらす脳神経系と免疫系のクロストーク(精神障害)
・抗菌性を有する医療用新素材の開発
感染生物学分野 所属教員
教 授 | 田中 芳彦 |
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准教授 | 永尾 潤一 |
助 教 | 岸川 咲吏 |
助 教 | 豊永 憲司 |